「児童虐待防止へ病院が総力 増える院内チーム設置」『中日新聞』2013年9月3日

この分野も、かなり奥が深い。 【関連】 ・聖隷浜松病院 医療福祉相談室 http://www.seirei.or.jp/hamamatsu/section/219.html ・安藤明夫「第105回 早期に見つけるために」『青く、老いたい』2013年9月5日 http://iryou.chunichi.co.jp/medical_column/leaf/20130904192408831 →「院内の調整、ネットワーク作りに力を発揮できる優秀なソーシャルワーカーがいるかどうか。この違いが大きいのだと思います。」 ・児童虐待防止医療ネットワーク事業 補助率 国1/2 都道府県1/2 http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002kahn-att/2r9852000002kasq.pdf →小児患者に対応する中核的な病院(拠点病院)に児童虐待専門コーディネーター(児童虐待の専門知識を有する医療ソーシャルワーカー(MSW)等)を配置し、院内及び地域の関係者との連絡・調整を行う。 <児童虐待専門コーディネーターの具体的な役割> 拠点病院が行う以下の事業において、窓口となり、院内及び地域の関係 者との連絡・調整を行う。 ①地域の医療機関からの児童虐待対応に関する相談への助言等 ・地域の医療機関児童虐待の医学的判断、保護者との接し方等の対応に迷う事例があった場合の相談を受け、留意点等について助言を行う。 ・救急搬送での対応事例について、地元の医療機関にフィードバックを行う。 ②地域の医療機関において、児童虐待対応ができる体制整備のための 教育研修 ・都道府県と協力し、児童虐待の教育研修を企画・運営し、地域全体の児童虐待防止対応能力向上を図る。 ・医学的所見等についての症例検討会を企画し、児童虐待の早期発見、支援 を行う体制を整える。 ③拠点病院における児童虐待対応体制を整備 ・院内に児童虐待対策委員会を組織し、児童虐待対応マニュアルを作成する。 ・委員会を開催し、医学的所見や本人や保護者等の情報等を共有し、対応方 針・役割分担を決定するなど、児童虐待対応の整備を図る。 ・「医療ネット 児童虐待防げ 愛知県、新年度立ち上げ」『中日新聞』2013年2月1日 http://iryou.chunichi.co.jp/article/detail/20130201152804782 →愛知県で、児童虐待防止医療ネットワーク事業を開始する旨が取り上げられている。 ・厚生労働省雇用均等・児童家庭局母子保健課『児童虐待防止医療ネットワーク事業に関する検討会』平成24年9月19日~  http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000al1v.html#shingi129030 →埼玉県立小児医療センターMSW平野朋美氏が委員として参加されている。
児童虐待防止へ病院が総力 増える院内チーム設置」『中日新聞』2013年9月3日 http://iryou.chunichi.co.jp/article/detail/20130904140040392 兆候を見つけ、即時対応  児童虐待が深刻な社会問題になる中、「虐待対応院内チーム」(CPT)を設ける病院が増えてきた。医師、看護師らスタッフの意識を高め、緊急度を判断し、地域と連携して母子支援につなげていくための組織だ。その取り組みと課題を紹介する。(編集委員・安藤明夫)  浜松市中区聖隷浜松病院は、2001年8月に児童虐待防止委員会を立ち上げた。前年に児童虐待防止法が制定され、医師らに早期発見の努力義務が課せられたため、当時の堺常雄院長(現日本病院会会長)の要請で、医療ソーシャルワーカー(MSW)の内田美加さんらが中心となり、組織づくりを進めた。  子どもの不審な負傷、異常なやせ方、不衛生な服装、おびえた表情など、医療現場で児童虐待の兆候に気付くことは多い。それまでは、虐待に気付いたスタッフが個々に児童相談所に連絡するなど、対応が一本化していなかった。新たに、(1)発見者がMSWに連絡(2)MSWが事実の裏付けや家族状況などを調べ、委員会に報告(3)医師、看護師、臨床心理士、MSWで構成する委員会で緊急度を判断し、対応を協議−との仕組みをつくった。定例会は2カ月に1度だが、緊急ケースは委員長の松林正小児科部長と内田さんら数人のメンバーで即時対応。スタッフ啓発のパンフレットやチェックリストも作った。  発足以来12年で、委員会に報告された虐待件数は、約470件=グラフ。見守り中の例なども含めると、院内の対応件数は年に延べ500件ほどあるという。内田さんは最初の3年を「気になることは何でも報告した『創設期』」。その後の3年を「件数は減ったが内容が濃くなった『成長期』」、その後を「地域の連携が進み、気掛かりな母子が他機関から紹介されてくるようになった『地域支援期』」と分類する。  同病院の特徴は、妊娠中の女性から産科の看護師が悩みごとを聞きだし、地域と連携して早期支援につなげていること。「養育困難など」のケースの多くは、産科の看護師からの報告だ。  12年の取り組みの中で、「世代連鎖」もしばしばみられるようになった。以前に関わった被虐待児が成長し、加害者になってしまう例だ。「70例ぐらいあります。周産期からの取り組みの大切さを痛感します。患者さんが何に困っているかを引き出すのが、看護師の大切な役目。それを地域につなげていきたい。虐待の発見より、母子の幸福が目的」と内田さんは話す。 地域と連携、母子支援  埼玉県立小児医療センターは、小児虐待対応チームを03年に発足。脳神経外科医の西本博副院長をリーダーに、各診療科の医師、看護師、MSWらが参加する。明白な虐待だけでなく、不適切な養育に病院全体で対応するのが基本原則。対応件数は発足2年目から毎年100件を超え、全国でも飛び抜けて多い。  スタッフの意識が高まる中、「子どもの皮膚が汚れている」「経済的に大変そうで、めったに受診しない」といった“気になる子”の例が多く寄せられるようになり、早期の対応につながっている。救急搬送されてきた子の負傷部のコンピューター断層撮影(CT)画像を見て、親の説明との食い違いを見つけるなど、医師の眼力も高まった。児童相談所や警察への通告が必要と判断したケースは、主治医が親にその理由を説明する。  「こっそり通告するのでは不信感を与えてしまう。反論があれば、チームとして責任を持って対応すると伝えます」とMSWの平野朋美さん。  現在、CPTを設ける病院は、全国の小児科がある中核病院の約6割とみられている。  臓器移植法の改正(2009年)で、15歳未満の場合、本人の意思表示がなくても、保護者の承諾で臓器提供が可能になった。それに伴い、虐待死した児童からの臓器提供を防ぐため、ガイドラインで「院内の虐待対応の体制整備」を求められたことが背景にある。しかし、熱意の温度差は大きいようだ。  4月に広島市で開かれた日本小児科学会学術集会では、CPTをテーマにしたシンポがあり「報告件数が年に数例。職員の技術も向上しない病院も多い」「熱心にやっていた人が異動すると、形だけの組織になってしまう」といった課題が報告された。