長尾和宏「町医者だから言いたい!《1647》 退院調整か脱出か」『アピタル』2014年10月23日

在宅側から見た、病院の退院調整に対するご意見。貴重だと思います。残念ながらMSWが挙がっていることに反省しつつ、MSWがいて良かったと患者・家族・在宅側から言われるように実践力と、組織内で力をつけなくてはいけません。同じような指摘は、2つ前の回でも。


長尾和宏「町医者だから言いたい!《1647》 退院調整か脱出か」『アピタル』2014年10月23日
http://apital.asahi.com/article/nagao/2014102300007.html

がんの終末期が近くなる大病院に入院しても、2~3週間もすれば退院の話が出ます。しかし、退院するまでには様々なステップを踏まなくてはいけません。
大病院には、地域連携室のMSW(医療ソーシャルワーカーや退院支援ナース、退院調整ナースなどの「退院の専門職」がたくさんいます。
彼らの相手をしているうちに、そのまま亡くなる方もいます。
私たちは退院前カンファレンスに呼ばれるので、患者さんのためならと思い、貴重な時間を潰して大病院のカンファレンスルームに行きます。そこで高カロリー輸液やインスリン抗がん剤について依頼されます。
「死がそこに迫っているなら、もうええやん!」と心の中で思うのですが、死ぬまでインスリンを4回打つことが絶対的善であると信じて疑わない研修医や上司や看護師などの病院スタッフの前では、私でも言えません。
しかも、発熱があったり炎症反応が少し上がれば退院延期になります。
「退院するには検査値が悪すぎる!」と医師が真顔で言います。
家に帰ることを、まるで宇宙に出ることのように思っているのか。
慢性疾患には退院調整や支援やカンファが必要でしょう。
しかし! 死を目前とした人にいったい何を調整をするのか、理解不能です。
退院調整という大きな壁が、在宅療養の期間を明らかに短くしています。
先日、退院して1週間程度で亡くなった人が続きました。
当院の外来から在宅に移行した人は、2カ月程度、家で楽しめます。
いかに退院調整という壁が患者さんを苦しめているかが分かります。
歩けなくなっても、車椅子で抗がん剤を打ちに通うことを指示されます。
患者や家族は、藁にもすがる気持ちで最後の最後まで抗がん剤を打ちに通う。
抗がん剤を打って家に帰ってきて、その日のうちに亡くなる人もいました。
しかし家に帰れたら、まだましです。
退院調整に引っかかった方の何割かは家に帰してもらう前に亡くなります。
退院前カンファレンスをすれば病院の収益になりますが、患者には無益です。
そんなものを無視して自ら「脱出」した人だけが在宅生活を楽しめるのが現実。
誰のための退院調整? 退院支援? 退院前カンファ? と叫びたくもなります。
おかしなおかしな退院前カンファに出るたびに、本当に胸が痛みます。
こうした本末転倒のがん医療を改めない限り、「がん放置」を勧める本が飛ぶように売れ続けます。
がん拠点病院さんには、こうした現実を直視してほしいと切に願います。