「生活困窮者の安全網 無料低額診療」『中日新聞』2015年4月21日

無料低額診療事業に関する最新記事。2012年度の558施設から2013年度の591施設へと1年間で33施設増。医療ソーシャルワーカーの設置が義務付けられており、受診受療援助・経済的問題の解決・生活全体の支援という点でとても重要な事業だと思います。

【関係資料】
・名南病院HP「『無料・低額診療事業』のご案内」
http://hp.meinan.or.jp/topics/120331-110506.html

厚生労働省『無料低額診療事業について』平成20年1月21日
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/01/dl/s0121-7d.pdf

・「原記者の『医療・福祉のツボ』 医療とお金(1)お金がなくても受けられる『無料低額診療』」 『読売新聞』2014年9月12日
http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=104972

「生活困窮者の安全網 無料低額診療」『中日新聞』2015年4月21日
http://iryou.chunichi.co.jp/article/detail/20150422141500396

経済的に困窮した人たちが、無料や少ない自己負担で医療を受けられる「無料低額診療事業」を実施する医療機関が増えている。2013年度には全国で591施設となり、03年度から10年で2倍強に増加。生活苦で受診に二の足を踏む人のセーフティーネットとして、あらためて注目が集まっている。(佐橋大)
 名古屋市南区の名南病院。救急も担う158床の病院は、11年10月に無料低額診療を始めた。3月末までの3年半で約120人を、制度を利用して診察した。その約7割は保険証はあるが自己負担分を支払う余裕がない人たちだ。
 糖尿病を長年患う同区の男性(72)も、その1人。1日2回、インスリン注射も必要で、月1度は通院している。以前から通院していたが、一昨年秋から制度を利用している。
 きっかけは、受診を予約した日に男性が病院に姿を見せなかったこと。男性が生活保護を打ち切られ、1割の自己負担分の支払いに不安を覚え、病院に行けなくなっていることが主治医の聞き取りで分かった。
 男性は、週3日のアルバイト代と年金の合計額と、生活保護基準額の差額を受給していたが、合計額が基準額をわずかに超えたため、生活保護が受けられなくなっていた。医師から病院のケースワーカーを紹介されて制度を知り、現在も自己負担なしで通院。病状も安定している。アルバイトも続けており「本当に助かる」と、ほっとした表情を浮かべる。
 同病院医療相談・連携室の医療ソーシャルワーカーを務める鷲野雅子さんは「制度を使った医療提供と並行して、生活保護の受給や保険加入などの手続きも進め、安心して受診できる環境を整える」と話す。
 厚生労働省によると、無料低額診療を実施する医療機関数は、13年度は前年度比6%増。10、11年度は東日本大震災の影響で統計がまとめられていないが、09年度との比較では、74%の大幅増となる。背景には、01年に無料低額診療を抑制する方針を通知した国が、08年に方針を見直したことや、同年のリーマン・ショックを受けて生活苦の人が増えたことがあるとみられる。
 名南病院も、窓口で「金銭的に困っている」と訴える受診者が増えたことを受け、09年に名古屋市と協議を始めた。同病院など全日本民主医療機関連合会(民医連)に加盟する医療機関の半数弱が制度による診療を実施。「恩賜財団済生会」など社会福祉法人や財団法人などの運営で、取り組む医療機関もある。
 医療機関によると、無料・低額化で、病院などは受診控えの患者を掘り起こせる。無保険の患者では収入はないが、患者が保険加入者なら、自己負担分を除いた公的保険負担分の医療費が収入となる。
 制度は、生活保護の受給などで生活が改善するまでのつなぎの位置付け。名南病院も「無料は原則、1カ月まで」などと定めている。しかし、当面の収入増が見込めないなど、状況に応じて延長している。
 減免の基準も医療機関によって違い、名南病院は、月収が生活保護基準額の120%以下なら自己負担を免除、140%以下なら減額としている。制度で受診できる医療機関は、都道府県、政令市、中核市社会福祉事業を担当する部署で確認できる。
 ただ、薬を院外処方する医療機関が増えているが、院外薬局での薬代は無料や低額の対象に含まれない。民医連は「代金を払えずに薬を服用できないことが、治療に悪影響を及ぼすケースもある。国に、制度改善を求めていきたい」としている。

 無料低額診療事業 社会福祉法に基づき、1951年に始まった。病院が必要と判断した患者に、医療費の自己負担額を減免する。保険料の滞納でいったん10割負担が求められる被保険者資格証明書で受診する人や、保険料を払えず公的医療保険に入っていない人、DV(配偶者間の暴力)被害者らが対象。