情報共有方法にMicrosoft社OneNoteを活用する

これまでの取り組みと問題意識
老健時代に、転所先の住所・連絡先・担当者の所属や氏名・受入条件・空床状況、FAX送信状などの機能を備えた社会資源データベースを開発した。従来、それらの情報は個々のMSWがそれぞに情報管理したり、紙やワードやエクセルで共有して情報管理していた。そういった従来の管理方法からFileMakerProというソフトを使用して、データベースとして共有化したのである。このデータベースは、既に異動先の病院でも導入し、日常業務に溶け込んでおり、必要な時にいつでも活用できるものとなっている。

ただ、老健時代にもう1つ課題に感じていたことは、相談援助業務や部署内ルールあるいは組織全体のルールの情報共有方法だった。よくある情報共有方法は、マニュアルの作成である。しかし、しばらく経つと陳腐化し、さらに元の文章もどこに行ったか分からなくなるといった事態を経験された方はいないだろうか。さらに情報には、口伝で共有されているものもあり、新たに配属されたMSWにとってはなかなか知ることができない場合が多い。「空気の様なルール」は、文章化されなければ知りようがないが、それを逸脱すると指導を受ける。非常にストレスフルである。なお、情報共有の不十分さは経験の浅いMSWだけの課題ではなく経験のあるMSWにとっても、忘却・思い違い・独りよがりなどの事態を生じさせることもあり、時に組織運営上支障をきたすことになる。

また、MSWとして働いていると、日々新しい情報が学会・専門雑誌・メディアやクライエントを通じて入ってくる。しかし、それを共有するための受け皿がなく、口頭で共有して活用される情報もあれば、後から、あの時のケースで活用したあの件なんだったっけと思い出そうとしても思い出せない場合もある。

試作品の限界
そういった問題意識は入職当時からあったものの、具体的にどうすれば解決できるのか分からないまま月日が経ってしまった。2009年には、疾患・分野別ソーシャルワーク模索し、情報共有方法としてgooglesiteを利用したデータベースを試行。しかし、あくまでweb上のシステムであり業務で使用するには管理上の問題を感じていた。業務で使用するにはローカルサーバー上で運用できるシステムでなければいけない。便利な時代だからこそ、情報は大切に扱わなければならない。結果的に、システム構築はここで一旦頓挫することになる。

既存ソフトでの情報共有の限界
それから6年が経過し、ここににきてようやく問題解決の方法を見つけることができた。その方法が、Microsoft社のOneNoteである。このソフトは、情報収集や情報共有を目的としたソフトで、あたかも本当のノートの様にページに様々な情報を記載することができる。特別な知識もいらない。では、ワードと何が違うのかと思われるかもしれない。ワードの場合は、1テーマごとにファイル保存するため数が増え、これはおのずと「あの文章はどこのファイルに書いたっけ?」となる。実際こういう状態に職場でも陥っていた。時間が経過すればその深刻度は増す。1ファイルに永遠と情報を入れ続けることもできるが、長上で該当文章を探しにくい。では、エクセルのシートごとに記入したらどうか?これは使った方はご存知の通りシートの作成には限界があり、またこちらもシートの数が増えればどこに何を記載したのか探すのが大変となる。また、文章情報や図形挿入が不便だ。

OneNoteの主な機能と選んだ理由
では、OneNoteでできる主な機能は何なのか。実際使用してみて、具体的には以下の5つが挙げられる。

・ワードやエクセルと違って、ネットワーク上の共有フォルダに保存しておけば、複数のパソコンから同時に操作が可能。記入した内容は共有され数秒後には同時に開いている相手の画面にも反映される。
・1つのファイルの中で、1テーマごとにページを作成することができる。情報量の制限はない。
・ファイル内の文章を検索し、すばやく該当するページを見つけてくれる。(これが重要)さらに、スキャナで取り込んだ文章を文字認識しその文章も検索対象となる。
・(職員別にID登録の上でWindowsにログインする場合は)修正/追加箇所はそれを初めて見た人には文字に色がついて表示される。また、修正/追加者の氏名も表示される。その後も当該文章の上で右クリックをすると記入者氏名が分かる。これにより、その文章を書いた人に、詳細を尋ねることができる。
・ページの過去の版も6ヶ月前までのものが保存されており参照することができる。

本ソフトを選択した理由はMicrosoft Office Home and Businessに標準搭載されているため、新たに購入をする必要がないということ。Office2010以降のバージョンがインストールされているパソコンであれば、早速スタートボタンからOfficeを開いてOneNoteが入っているか確認して欲しい。なお、OneNoteがインストールされていない場合は、無償提供版もあるがデータの保存先がMicrosoft社のクラウドOneDriveのため、上述のデータの扱いに抵触することから注意が必要である。

情報共有の目的
OneNoteを利用して、相談援助業務や部署内ルールあるいは組織全体のルールを情報共有するには、自分の頭の中にある暗黙知形式知化する習慣をMSWそれぞれが持たなければいけない。「自分は困らないから別にいいや」ではなく、持っている知識を文章化することで、経験の浅いMSWもそれを活用することができる。また、一から調べるのではなく部署として知識が蓄積されていればそれを踏まえて更に深く考えることができる。個々のMSWの知識を結集し、部署としての武器に変える。結果、クライエントに対して、一定の質を保った相談援助が素早く展開できることが本取り組みの目的である。

情報の深化
なお、下記の図は、形式知化したものがDataからIntelligenceへと深化するプロセスを現している。個々に散らばった情報(Data)が、MSW個人の中で蓄積され(Information)るところまでは従来の状況である。それを、部署としてOneNoteを用いで共有化し(Knowledge)、それをより活用しやすいように整理したり考察を加えて更にレベルの高いものへと昇華させる(Intelligence)。抽象的に言えばそういうことをやろうとしている訳である。

Photo
出典:門脇香奈子ほか『ひと目でわかるMicrosoft OneNote 2010』日経BP社,2010,p172

まとめ
転院・転所先の情報管理については、既にFileMakerProを用いて社会資源データベースとして開発した。しかし、相談援助業務や部署内ルールあるいは組織全体のルールの情報共有方法が残された課題であった。その解決方法として、OneNoteを用いて情報共有をすることが可能となった。但し、暗黙知形式知に変える習慣を各MSWが持たなければ、このシステムも十分機能しない。各MSWが蓄積した知識をOneNoteを用いて共有し、InformationからIntelligenceへと昇華することができれば、クライエントに対して、一定の質を保った相談援助が素早く展開できることが本取り組みの目的である。大切に育てていきたい。