第1回アドバンス・ケア・プランニング研究会年次大会(研修記録)

2016年6月11日(土)、第1回アドバンス・ケア・プランニング研究会年次大会に参加した。100名定員だったが、会場は満員。

○印象に残った言葉・ことがら
国立長寿医療研究センター 三浦医師
1991年 患者自己決定権法(米国)
 リビングウィル/医療代理人の氏名が盛り込まれる。

1995年 
J Am Geriatr Soc. 1995 Apr;43(4):440-6.
Advance care planning as a process: structuring the discussions in practice.
Emanuel LL1, Danis M, Pearlman RA, Singer PA.
→医療者と共に話し合うプロセスが重要であると指摘。

1997年 事前指示書の限界
J Am Geriatr Soc. 1997 Apr;45(4):508-12.
Do advance directives provide instructions that direct care? SUPPORT Investigators. Study to Understand Prognoses and Preferences for Outcomes and Risks of Treatment.
Teno JM1, Licks S, Lynn J, Wenger N, Connors AF Jr, Phillips RS, O'Connor MA, Murphy DP, Fulkerson WJ, Desbiens N, Knaus WA.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9100722
→大規模調査の結果、リビングウィルはネガティブな結果に。課題として、そもそも患者に十分な情報が提供されているのか、患者の気持ちは変化する、本人の理解は十分な状況なのかといった点が挙げられた。

岩手県立二戸病院 高橋治医師
AHN(人工的水分・栄養補給法)の選択について調査を実施。「AHN離れ」は明らかで、家族の言葉から感じ取ることができた(ANHの風評被害)。研究会の活動やマスコミの報道などでAHNの本来の目的が理解されないうちに“評判”が悪くなってしまった。高齢者の終末期の過ごし方を考えるときに、“本人の意向を尊重する”という文化を創っていく必要があった。

「“最期のとき”を決められない ~延命をめぐる葛藤~」『クローズアップ現代』No.3583,2014年11月19日放送
http://www.nhk.or.jp/gendai/articles/3583/1.html

・国立循環器病研究センター 高田看護師
循環器疾患は、増悪と軽快を繰り返す。治療の見込みのある患者に対してACPを行うことは簡単ではない。

亀田総合病院蔵本医師
ACPを行う場合、リビングウィルをとったとしてもそれをどこの部署が管理するのかが課題。主治医との関係性も重要。亀田総合病院では、昨年からPOLST(Physician Orders for Life-Sustaining Treatment)を開始している。そのためリビングウィルはとっていない。また、MSWが28名程おり患者の意思確認をしている。

一般社団法人 Institute of Advance Care Planningでは、Do Wishというカードゲームを用いて、遊び感覚で自分の命があと僅かだとしたら自分にとって一番大切なものは何かについて考えるワークをしている。日本語版は近日発売予定。

・岐阜医療センター下平医療ソーシャルワーカー
COPD患者を対象にACPを実施。普段ケアを行っている看護師がACPの適応と思われる患者に声をかけ、合意した人に実施。相談を希望した人の傾向としては、差し迫った問題が無い比較的余裕のある人の協力が多かった。リビングウィルは作成しているが、あくまでも切っ掛けに過ぎない。それから重ねる会話のプロセスに重きを置いている。

・西岡病院澤田医師
ACPをあまり崇高なものにしたくない。日常診療の一部。患者は入院時・外来時のどこかで話してくれる。入院時と外来それぞれでの患者の意思の変化について、SWが橋渡しをしてくれている。ACPシートを開発したが、全部を埋める必要はない。少しずつ該当する箇所を埋めていくといった感じ。病院と地域との間で患者の思いの伝達が重要。いきなりACPといっても、患者は理解が難しい。1回目はパンフレットをお渡しする程度。2回目に声かけし、本人が希望したらMSW面接を依頼している。

○学んだこと・考えたこと
・ACPを実施する上での促進因子は、以下の点だと思った。
①病院として実施に前向きである
②一部の積極的な医師の存在
③実施病棟を絞って実施する
④ACP対象患者の選定役としての看護師の存在
⑤PCチームやEOLチームが存在し、主治医や病棟からのコンサルを受ける土壌がある
⑥対象を、終末期に限らず慢性疾患を抱えつつも元気な方も対象とする

一方で、上記促進因子が1つも無い場合、ACPが一部の職員の自己満足となる可能性が考えられた。場合によっては、本人と関係を築いてきた主治医と緊張関係を生んでしまうことも。

ACPを医療機関内での実践に終わらせるのではなく、地域とも患者の思いを繋げるような取り組みが必要と複数の演者が指摘していた。地域にその土壌を作るために出張講座を行っている点は重要と思った。

医師・看護師・MSWでチームで取り組むことが重要だと再認識した。

2016 年度日本老年医学会学術集会が6月8日〜10日と石川県で開催。8日に「倫理委員会企画:質の高い人生の最終段階における医療の実践に向けて:どのように人材を育て組織化を行うか」というシンポジウムが開かれ、「 4.人生の最終段階の意思決定支援におけるソーシャルワーカーの役割」として、一般社団法人 WITH 医療福祉実践研究所 田村 里子氏が発表されていた様子。同テーマを取り上げた研修はまだ空きがあるようです。

関連して、石郷岡美穂「第20回日本緩和医療学会学術大会参加報告」『沖縄県医療ソーシャルワーカー協会MSWニュース10月号』2015年10月1日発行が印象深かった。