新刊案内(その1)

いくつか面白そうな書籍を紹介します。

スーザン・H・マクダニエルほか(渡辺俊之監訳)『メディカルファミリーセラピー―患者・家族・医療チームをつなぐ統合的ケア』金剛出版,2016.9.10

○内容
複数の理論的方向性を持つ医療現場の多職種を協働に導き,システム理論を基盤として患者と家族の精神的健康と身体的健康を架橋する実践として誕生した「メディカルファミリーセラピー」。
健康や人間関係の問題はすべて,生物学的,心理学的,社会的性質を帯びている。メディカルファミリーセラピーの背後にあるこの仮定において,患者は家族との関連でとらえられ,医療提供者はより大きなチームや医療システムとの関連でとらえられ,すべての人がより広い地域社会や文化との関連でとらえられる。
医療において失われやすい患者の自立性と絆のバランスを再構築し,専門家と患者・家族の良好なコミュニケーションを橋渡しするための多様な臨床戦略を提示,遺伝医療や不妊治療など医療環境の変化,医療政策・財政の構造転換も視野に入れた,医療における新たな専門家の役割を示す。

○目次
第I部 メディカルファミリーセラピーの基礎
第1章 メディカルファミリーセラピーの概要
第2章 メディカルファミリーセラピーの臨床的戦略
第3章 医療専門家間の協働
第4章 共有される病いの情緒的テーマ
第5章 メディカルファミリーセラピーにおける自己
第6章 コミュニティへの参加
第II部 ライフサイクルに応じたメディカルファミリーセラピー
第7章 有害な健康行動
第8章 カップルと病気
第9章 妊娠喪失と不妊,生殖技術
第10章 子どもへのメディカルファミリーセラピー
第11章 身体化患者とその家族
第12章 ゲノム医療の経験:新たなフロンティア
第13章 介護すること,終末期のケア,そして喪失
第14章 メディカルファミリーセラピストは,医療変革にどのように貢献できるか
付録/メディカルファミリーセラピーの実践者たち


日本混合研究法学会監修『混合研究法への誘い─質的・量的研究を統合する新しい実践研究アプローチ』遠見書房,2016.9.5

○内容
質的研究と量的研究を統合し,新たな研究のありかたを切り開くアプローチ「混合研究法」の世界
混合研究法の哲学的・歴史的背景から,定義,デザイン,研究実践における具体的なノウハウまでがこの一冊でよく分かる。質的研究と量的研究の単なる併用からシナジーを生み出す統合を目指す,知識の本質を問う新しい科学的アプローチ「混合研究法」への招待。
本書は,斯界をリードする研究者が参集して開催された国際混合研究法学会アジア地域会議/第1回日本混合研究法学会年次大会(大会テーマ『混合研究法への誘い―学の境界を越えて』)の基調講演・特別講演,パネル・ディスカッション,そしてワークショップの内容を収載した。

○目次
イントロダクション
第1章 混合研究法―「古くて新しい」研究アプローチ 抱井尚子
§1 ワークショップ
第2章 混合研究法入門 R・B・ジョンソン,M・D・フェターズ(報告者:抱井尚子)
第3章 最先端の混合研究法デザイン J・W・クレスウェル,B・F・クラブトリー(報告者:竹之下れみ,井上真智子)
第4章 混合研究法としてのグラウンデッドなテキストマイニング・アプローチ 稲葉光行・抱井尚子
第5章 混合研究法によるデータの分析と統合 P・ベイズリー(報告者:田島千裕)
§2 基調講演
第6章 混合研究法の研究設問とデザインを発展させるため,ストーリーを使うこと B・F・クラブトリー(報告者:尾島俊之)
第7章 ミックスト・メソッズ・ストーリー―調査者と混合研究法の相互作用を振り返る 抱井尚子
第8章 看護における混合研究の活用例 亀井智子
第9章 混合研究法を用いた包摂的科学への移行 R・B・ジョンソン(報告者:八田太一)
第10章 混合研究法的思考と行動の様式―実践における多様な視点の統合 P・ベイズリー(報告者:抱井尚子)
§3 特別講演
第11章 社会科学から健康科学へ混合研究法が拡張するにつれて J・W・クレスウェル(報告者:八田太一)
§4 パネル・ディスカッション
第12章 混合研究法をめぐる議論からみえてくるもの(1) B・F・クラブトリー,抱井尚子,亀井智子(報告者:八田太一)
第13章 混合研究法をめぐる議論からみえてくるもの(2) R・B・ジョンソン,P・ベイズリー,J・W・クレスウェル(報告者:八田太一)


近藤克則編『ケアと健康:社会・地域・病い (講座ケア 新たな人間―社会像に向けて) 』ミネルヴァ書房,2016.9.10

○内容
本書は、ソーシャル・キャピタルをキー概念として、社会疫学・社会政策学等の成果を踏まえてケアと健康の関係性を考察したものである。身体的・精神的要因だけでなく人間を取り巻く社会的・経済的環境も、健康の重要な決定要因であるという考えに基づき、健康格差の拡大を予防し「健康なコミュニティ」の構築を可能にするケアのあり方を、愛知県武豊町の地域サロン事業、秋田県の自殺対策等の具体的な事例を基に提言した一冊。
[ここがポイント]
◎ 身体的・精神的要因だけでなく、経済的・社会的環境も重要な要素と捉えた 「新しい健康観」と、この観点に基づいたケアのあり方をを提言。
◎ 愛知県武豊町の地域サロン事業、秋田県の自殺対策等、全国の様々な事例を基に考察。

○目次
「講座ケア」刊行にあたって
はしがき
序 章 ケアと健康の関係を考える:新たなケアと健康観の確立に向けて(近藤克則)
第I部 健康に影響する社会的・環境的・遺伝的要因
第1章 社会疫学とは何か:健康の社会的決定要因と健康格差の研究(福田吉治)
第2章 ソーシャルサポートと健康(村田千代栄)
第3章 近隣環境と健康(埴淵知哉)
第4章 疾病の遺伝要因(羽田 明)
第II部 ソーシャル・キャピタルと健康
第5章 健康の社会的決定要因としてのソーシャル・キャピタル:その作用機序と実証の方法(相田 潤・近藤克則)
第6章 ソーシャル・キャピタルと自殺予防:コミュニティ・アプローチへの応用(本橋 豊・金子善博・藤田幸司)
第7章 ソーシャル・キャピタルと介護予防:武豊町における地域介入研究の事例から(平井 寛)
第III部 社会的レベルのケアに関わる要因と政策
第8章 予防医学におけるハイリスク戦略とポピュレーション戦略(尾島俊之)
第9章 社会的排除・剝奪とライフコース(斉藤雅茂)
第10章 相対所得仮説からみた格差と不健康(近藤尚己)
第11章 福祉国家におけるケア供給の意義:医療の健康への寄与を中心に(松田亮三)
第12章 健康影響評価(HIA)(藤野善久)
第IV部 ケアにおける“多対多モデル"
第13章 ケアにおける“多対多モデル"の分類と方法・方策(野中 猛)
第14章 地域資源をつなぎ開発するケアマネジメント(樋口京子)


井上恒男『英国における高齢者ケア政策――質の高いケア・サービス確保と費用負担の課題』明石書店,2016.9.10

○内容
英国の高齢者ケアは、1990年代ブレア労働党政権の改革から、保守・自民連立政権下での2014年ケア法の制定に至る流れの中で、政治による挑戦が続けられている。最新動向まで視野に入れ体系的にまとめた、日本の介護保険政策への参考ともなる一冊。

○著者略歴
1949年生。1974年、東京大学法学部卒業後、厚生省入省
現在、同志社大学政策学部・大学院総合政策科学研究科教授
主著:『英国所得保障政策の潮流――就労を軸とした改革の動向』ミネルヴァ書房(2014年)、「イギリスの社会保障と税制、財政対策議論」『健保連海外医療保障』No.110(2016年)

○目次
第I部 英国における高齢者ケア
第1章 英国の高齢者
第2章 高齢者ケアに関する行政と財政
第3章 高齢者ケア・支援サービスの利用
第4章 在宅でのケア
第5章 施設でのケア
第II部 高齢者ケアの向上を目指す政策
第6章 ケア・サービスの質の向上
第7章 ケア従事者の確保
第8章 介護者への支援
第III部 高齢者ケア改革の動向
第9章 ケア費用負担問題と2014年ケア法
第10章 民間保険商品への期待と検討