新刊案内(10・11・12月)

松田晋哉『欧州医療制度改革から何を学ぶか: 超高齢社会日本への示唆』勁草書房,2017.10.27

〇内容
少子高齢化と経済の低迷による医療制度の持続可能性不安。この状況は1980年代以降、ヨーロッパ諸国が日本に先んじて経験したことであり、これまで種々の対策が行われてきた。本書は、欧州4か国(英仏蘭独)における医療制度改革の概要を俯瞰、そのエッセンスから日本の医療制度の課題を論考、解決策を提示するものである。

〇目次
第1部 ヨーロッパの医療制度の概要(イギリスの医療制度
フランスの医療制度
フランスの自由開業医療職について
オランダの医療制度
ドイツの医療制度
ヨーロッパにおける近年の医療制度改革の概要
ヨーロッパにおけるコミュニティケアについて)
第2部 日本への示唆(日本の医療制度の概要
今後日本でも検討されるべき対策)
付録

宮本太郎編『転げ落ちない社会: 困窮と孤立をふせぐ制度戦略』勁草書房,2017.10.31


〇内容
貧困については、原因とその対処法、子ども・高齢者・非正規(特にシングルマザー)の貧困の実態、生活保護制度と社会保障制度の境界を探る。格差については、教育・所得・雇用・社会保障・住宅の格差の実態とその是正策を探る。さらに貧困解消と格差解消は同時並行的に行えるのか、優先順位はあるのか。これらの課題に社会福祉社会保障の専門家が大胆に提案する。

〇目次
序章 困窮と孤立をふせぐのはいかなる制度か?
第1章 標準家族モデルの転換とジェンダー平等―父子世帯にみる子育てと労働をめぐって
第2章 新しい居住のかたちと政策展開
第3章 住宅とコミュニティの関係を編み直す
第4章 相談支援を利用して「働く」「働き続ける」―中間的なワーク・スタイルの可能性と課題
第5章 支え合いへの財政戦略―ニーズを満たし、財源制約を克服する
第6章 子どもの貧困と子育て支援
第7章 若者の未来を支える教育と雇用―奨学金問題を通じて
第8章 脱貧困の年金保障―基礎年金改革と最低保障
第9章 高齢期に貧困に陥らないための新戦略
終章 鼎談:「転げ落ちない社会」に向けて

ブレンダ・デュボワほか(北島英治監訳)『ソーシャルワーク――人々をエンパワメントする専門職』明石書店,2017.11.3


〇内容
ソーシャルワーカーが身につけるべき10のコア・コンピテンシー(核となる専門的力量)の習得を目的に編集された米国のソーシャルワークの教科書。問題が複雑化し、混迷する社会のなかで求められるソーシャルワーク・プラクティスとは何か。人々が直面する問題解決の直接的な支援のみならず、人と社会のウエルビーイングを高めるために社会の変革も視野に入れた理論と実践を学ぶ。

〇目次
序文 第1部 専門職としてのソーシャルワーク
1 ソーシャルワーク 援助の専門職
2 進化し続ける専門職
3 ソーシャルワークと社会システム
4 ソーシャルサービス提供システム
第2部 ソーシャルワークの視座
5 ソーシャルワークの価値と倫理
6 人権と社会正義
7 ダイバーシティソーシャルワーク
第3部 ジェネラリスト・ソーシャルワーク
8 エンパワメント・ソーシャルワーク・プラクティス
9 ソーシャルワークの機能と役割
10 ソーシャルワークと社会政策
第4部 プラクティスの現場における今日的課題
11 ソーシャルワークと貧困、ホームレス、失業、刑事司法
12 保健、リハビリテーションメンタルヘルスにおけるソーシャルワーク
13 家族と青少年とのソーシャルワーク
14 成人と高齢者のためのサービス
エピローグ
参考文献
索引
監訳者あとがき

〇コメント
ソーシャルワーカーコンピテンシーに感心があるならば避けては通れぬ書籍となろう。あとは価格の問題のみ。

三島亜紀子社会福祉学は〈社会〉をどう捉えてきたか: ソーシャルワークのグローバル定義における専門職像』勁草書房,2017.12.9

〇内容
2014年改定の「ソーシャルワークのグローバル定義」が示す専門職像とは。新たに盛り込まれた「地域・民族固有の知」「社会的結束」「多様性」の3つの概念をキーに、現在のソーシャルワークの専門職像に迫るとともに、社会学分野における〈社会的なるもの〉をめぐる議論を参照しつつ、社会福祉学における〈社会〉という概念の内実を問う。

〇目次
はじめに

序 章 社会福祉学は「社会」をどう捉えてきたのか
「社会的な」社会学社会福祉学
「社会的なもの」とは何か
日本の「社会的なもの」の「社会福祉学的歪曲」
各章の概要

第一章 ソーシャルワークの知のあり方の変化と「在来知(indigenous knowledge)」
第一節 ソーシャルワークを定義すること
第二節 ソーシャルワークの知
第三節 さまざまな学問領域におけるindigenous knowledge(在来知)
第四節 日本の福祉にまつわる在来知
第五節 ソーシャルワーカーが反省すべきこと

第二章 植民地主義ソーシャルワーク
第一節 植民者に位置付けられたソーシャルワーカー
第二節 ソーシャルワーク萌芽期にみる植民地主義
第三節 この世の暗黒を「発見」した者

第三章 他者の起源――貧困救済と動物愛護の接点
第一節 大正期のソーシャルワーカーによる動物愛護運動
第二節 リスクとソーシャルワークと動物愛護
第三節 動物愛護運動と方面委員制度を貫く社会ダーウィニズム

第四章 多様性を讃えること
第一節 多様性という概念
第二節 社会福祉教育領域における多様性の定義
第三節 「隠れたカリキュラム」と多様性の尊重

第五章 リスクと寛容さと「社会的結束(social cohesion)」
第一節 社会的結束とは何か
第二節 多様性の尊重と社会的結束のバランス
第三節 リスクとソーシャルワーク

第六章 ソーシャルワークの「現地化(indigenization)」再考――ソーシャルワークのグローバル定義にある重層モデル
第一節 社会・政治・文化に合わせたソーシャルワーク
第二節 二〇世紀初頭の日本のソーシャルワークの現地化
第三節 古代の権力装置に起源がある「参加」

終章 アンペイド・パブリック・ワークへの動機付けとその逆機能

おわりに
参考文献
人名索引
事項索引

〇コメント
社会福祉学の〈科学〉性―ソーシャルワーカーは専門職か?』勁草書房,2007の衝撃から10年。難しい事柄を分かりやすく、かといって単純化もし過ぎず。著者の文章力が本書でも発揮されていると期待。今から予約注文しておく。