今日における医療ソーシャルワーカーの活動分野

医療ソーシャルワーカーの活動分野は、今日どこまで広がっているであろうか。

■病院(退院支援)
退院支援はMSWの業務の中で大分を占めることは間違いない。これにより我々は人数を大幅に増やした。看護部との関係性や、看護師人員の余裕の程度で、退院支援における看護師配置の状況は異なる。また、時間軸でも異なることを念頭に業務展開に強弱が必要となる。なお、急性期とそれ以外の病院で退院支援の内実は異なる。急性期においては新規入院患者のためにも、急性期症状が落ち着くのを見越して治療と同時に退院支援が行われ最短での退院が求められる。生活課題への介入は最小限に留め、それを具体的に解決するのは受け入れ先となる病院のMSWとなる。生活課題の引継ぎの標準化が求められる。

■病院(外来)
最近は外来での活動も再注目を浴びている。退院支援が騒がれる前は当たり前にしてきた業務である。昭和・平成初期の時代からMSWが雇用され、その頃に入職したメンバーが責任者をやっていれば、価値・知識・技術を受け継ぐことはできるであろう。しかし、2000年以降退院支援をきっかけにMSWが雇用された病院では、外来業務は未知の領域となる。今日的状況以前のことを知る先人の経験を定年退職前に引き継ぐ重要な時期であろう。

後述の地域活動と重複する部分もあるが、アウトリーチの標準化も喫緊の課題だ。ワーカビリティーが一時的に低下しているクライエントについて、自宅訪問、関係機関への同行がここでは想定される。

希望の光としては、第13回愛知県医療ソーシャルワーク学会や、第66回公益社団法人日本医療社会福祉協会全国大会において、退院支援以外の報告が増えてきていることが挙げられる。全国大会では、6/16「第2分科会「業務分析・業務開発Ⅱ」において、堀越由紀子教授の「2-6 地域包括ケア時代のMSW~急性期病院における外来ソーシャルワーク」が必聴であろう。

関連する、堀越由紀子「地域包括ケア時代における『渚』と対峙する『外来ソーシャルワーク』-MSWはいかに介入するか-ソーシャルワーク研究所『ソーシャルワーク実践の事例分析』第6号,2017は、愛知県のMSW内でも話題となっており、早速購入。いつも私の関心の先を行っておられる。

ここには、がん相談支援センターの業務も含まれる。また近年は治療と就労の両立支援も政策的に重要な取り組みとなっている。

■病院(地域活動)
地域での連携協議会や患者団代の組織化。事務局という手段になることを通じて、患者・家族への地域での生活の質向上を図る。地域ケア会議に出席し、医療機関を代表して地域の課題に関わっていく。MSWによるメゾソーシャルワークであり、田中千枝子教授による理論的下支えを受けながらどこまで「見える化」できるか。「見える化」されたメジャーな例としては、福岡県大牟田市にある白川病院の猿渡進平氏の実践が挙げられる。

厚生労働省地域における住民主体の課題解決力強化・相談支援体制の在り方に関する検討会(地域力強化検討会)最終とりまとめ』2017においても、「宅医療を行っている診療所や地域医療を担っている病院に配置されているソーシャルワーカーなどが、患者の療養中の悩み事の相談支援や退院調整のみならず、地域の様々な相談を受け止めていくという方法」(p17)と指摘されている。これまでに連携を取ってこなかったや分野や所属の異なる社会福祉士と協働する方法論と実践を今後発展させていくことができるか。

政策の流れともリンクする分野であり成果を見せやすいことも意識して取り組む必要がある。

■病院(危機介入)
2次・3次の救急指定病院では、様々な生活課題を抱えた患者が搬送されてくる。ホームレス、生活困窮者、各種依存症、自殺未遂、虐待、身寄りのない人。これらの人々が、安心して医療を受けまた生活を再建できるように、限られた時間の中で正確な情報収集とアセスメント、地域の関係機関との協働通じて支援していく。MSWが十分に活躍できる分野であるが、一定以上の総合力が求められるため、救急認定ソーシャルワーカー認定機構での標準化された養成に期待したい。

■病院(意思決定・生命倫理
人生の最終段階における医療・ケアにまつわる決定プロセスが注目されるようになり、本人がどのように医療やケアを受けたいか・受けたくないかについて必要な情報を提供した上で意見を尊重するプロセスが注目されるようになった。MSWはこのことについて従来から大切にしてきたが、個人の経験値に留まってしまい、論文・書籍化による職種としての蓄積や市民・他職種に向けての啓発活動が十分になされなかったため今日的状況に陥っているように思われる。
また、各医療機関で、臨床倫理チーム・倫理委員会が設置されそのメンバーの中にMSWが配置されるようになってきた。この中でMSWはどのように専門性を発揮できるか。意思決定支援の二の轍を踏まないよう個人芸ではない活躍が望まれる。なお、日本臨床倫理学会でもMSWの発表やシンポジストが散見される。

■診療所/在宅医療・介護連携支援センター
訪問診療に積極的に取り組む診療所での在宅療養支援。医師会などに設置された在宅医療・介護連携支援センターでの、個別だけでなく地域を対象とした在宅支援。日本医療社会福祉協会の功績により、診療報酬において退院時共同指導料1でも評価された。病院内の業務に留まることに限界・違和感を覚えたMSWが、転職するという例もある。但し、給与・福利厚生の面で大規模病院に劣るため、働き盛りだが家庭持ちの生計中心者にとっては二の足を踏んでしまう。やりがい優先の人、パートナーと二馬力で稼げばよいと合意している人、定年退職後の人、病院でも同程度の給与だった人が転職しているように思われる。

■コミュニティーソーシャルワーク
近年注目を集めているコミュニティーソーシャルワーカーCSW)。医療機関内のことがらを知っているMSWだからこそ、CSWとして医療機関への受診・受療援助、入院・入所支援は大いにノウハウを活用できるであろう。ここでは社会福祉協議会、居宅介護支援事業所、地域包括が想定される。前項の診療所/在宅医療・介護連携支援センターと同様に、MSWからの転職者・異動者がいる。やや毛色は異なるが身元保証団体や施設紹介業に転職する場合も十分にありうる。

■その他
イレギュラーなものとして、福祉事務所における医療扶助関連業務(期間雇用やパート職)というものもある。医療機関での経験がかわれての求人枠だが、非正規が多く活動は限定的であろう。

これだけ分野が広がってくると、もはや一人のMSWが網羅的に「高い水準」で対応するには限界があると思う。ある程度、分野を分けてローテーションさせながら部署として経験を蓄積させていく必要があろう。

一方で、文言は違えどこれらの活動は『医療ソーシャルワーカー業務指針』2002の中に含まれており、先人から「それでもなお頑張りなさい」と叱咤激励されているように感じた。