「子ども分野の資格を創設へ 国家資格は議論持ち越し」『福祉新聞』 2020年10月27日

「子ども分野の資格を創設へ 国家資格は議論持ち越し」『福祉新聞』 2020年10月27日
https://www.fukushishimbun.co.jp/topics/25027

厚生労働省の「子ども家庭福祉に関し専門的な知識・技術を必要とする支援を行う者の資格の在り方その他資質の向上策に関するワーキンググループ」で議論がなされています。2020年10月16日の第6回で中間整理がなされたとのこと。

議事録を読むと、とても興味深いやり取りがなされています。具体的には、以下の通り。

第2回議事録

〇山縣座長 加藤委員と宮島委員は、ジェネリック共通部門が社会福祉士的なものをイメージ、奥山委員とか藤林委員は、それは駄目だ。子ども家庭福祉そのものをベースに見ましょうということでよろしいですね。(p23)

〇奥山委員 加藤委員に質問ですけれども、社会福祉士がベースで、その上にスペシフィックで精神保健福祉士があるというのなら話は分かるのですけれども、何で半分の社会福祉士のカリキュラムに精神保健が来て、それが精神保健福祉士という資格になっているのか。そこがさっきの御意見と違う気がするのです。つまり、ジェネリックに全部ができて、その上に精神保健があればいいでしょう。児童家庭がそうでしょうというのと同じじゃないと思うのですけれども、どうして今は違うのですか。(p23)

〇加藤委員 歴史から話すとすごく長くなるので、奥山先生と後ほど飲み会でも設定しようと思いますけれどもね。もちろんそうです。本来、ソーシャルワーカーの資格というのは1つであるべきだろうと思うのですけれども、成立の過程からそのあたりがうまくいかなかったところが大きな課題です。なので、先々の問題、先ほどの10年、20年というところの視点で行くのであれば、資格が1つになるということは理想だと思います。ただ、現実、分かれてしまっているというところがあると理解いただくしかないかなと思います。既存の資格との関係の話になってしまいますけれども、なぜ精神保健福祉士社会福祉士ではこの資格は駄目なのかというところも、私たち、振り返っていかなければいけないところで、実際にやらせようと思ってもできないじゃないかと言われてしまうことが想定できますので、そこに対しての力をつけていくというのは、ソーシャルワーカーの団体としても考えているところと御理解いただけたらと思います。歴史については、また後ほど御説明します。(p23)


〇加藤委員 簡単に。私は、平成2年に病院に出ているので、ちょうど渦中だったのです。なので、私は資格の波に翻弄されたと自分で思っているのですけれども、出てくるときに社会福祉士の資格の話があり、社会福祉士の中に医療分野は入らないという話だったので、医療ソーシャルワーカー協会、精神保健福祉協会は社会福祉士に手を挙げなかったわけですね。その後、精神保健福祉士という資格が出て、要は、当時、病院のソーシャルワーカーが多かったので、精神保健福祉士に流れたという歴史があったのです。ただ、今、職域が拡大してきて、医療だけにこだわらなくなってきているという現状がある中で、生活に根ざしたソーシャルワークをやっている人たちが増えてきている。なので、領域とか場面で分けてソーシャルワークを限定していくのではなくて、もっと全体的に生活を支えるという視点。さっき先生がおっしゃった権利擁護の視点を持ったソーシャルワーカーとしての資格というか、そこを強調していったほうが、世の中的にも理解をいただけるだろうというところで、各団体がなるべく同じ方向を向いて動こうというところは事実としてあります。なので、宮島先生がおっしゃったように、幾つも資格ができて分断していくことをよしとしているという状況ではないということは、1つ確実にお話しできるところだと思います。(p31)

〇山縣座長 (中略)社会福祉士ができる当初は、精神保健福祉士も一緒にという考え方がありました。社会福祉士で作ろうとしたけれども、西澤委員がいみじくも言われたけれども、医師会組織全体かどうか分かりませんが、医療関係者からよくないということで、法律も結果的に介護福祉士社会福祉士は一つの法律だけれども、精神保健福祉士は全く別の法律としてできた。その話し合いの中で、今、加藤委員が言われたように、社会福祉士の実習先として病院は認められない。医療ソーシャルワーカーの方々は非常に困られたという経緯があったので、今、もう一回、一緒にしたらどうかという声が出ている。まだ方向が確定したわけじゃない。その背景には、今のような中身の問題だけじゃなくて、これは大学によって事情が違うかもしれないけれども、少なくとも精神保健福祉士の大学での養成課程がどんどん縮小していっています。社会福祉士を取って、半年か1年の養成校に行って資格を取られる。結果として、精神保健福祉士の方々はかなりの人たちが両方持っているという実態がある。これから学生も減っていく中で、大学側の経営上の事情も恐らく背後にはあると思います。(p32)

(第3回議事録)

○加藤雅江委員 (中略)私自身は、いろいろなソーシャルワーカーの資格が分断されるべきではないと思っていて、今回、コロナのことがあって、私どもの協会、日本精神保健福祉士協会は、相談窓口をメールで開設しました。そのことと、私自身、地域の中で活動していると、喫緊の課題として本当にすぐ動かなくてはいけないという印象が強くて、長い時間をかけられない。ただ、長い時間がかけられないからこの議論ができないよというお話でなくて、さっき、増沢先生になぜ教育の場面とのお話を聞いたかというと、今回、学校が閉鎖されて、地域の中で教育の場面と福祉がうまく連携が取れないというのがすごく大きな課題だなと思ったのです。教育の方たちとお話を対等にしていくためには、ある程度ソーシャルワーカーという資格が一つ大きなものとして提示されて分かりやすいような形でないと、3つに分断されてそれぞれ視点が違うということではあまりお話にならないという印象があったので、その辺りのことをお伝えしたいと思いました。(p35)

第5回議事録

〇佐藤委員 過去の議論の中にも、社会福祉士精神保健福祉士というものができてきた背景のことであったり、精神保健福祉士協会の加藤さんのほうからも、今後2つの資格が統合していくような動きがあるというお話があったと思います。社会福祉の業界としては、分野ごとに福祉の領域の資格ができるということについては、人の暮らしを守る上ではうまくないのではないかということを共通認識として持っているところです。子ども家庭を見たときでも、親御さんのこと、もっと言うと高齢者虐待の背景に児童虐待があったりということの社会の様々なひずみに全て対応することを考えたときに、子ども家庭というところの分野を深めることと、あとはその家庭なりその人の人生の人権を守るということは並行して考えていかなければならないことだと思うので、資格については、座長がおっしゃるように2つの様々な意見があるということについては私も了承しているところではあるのですけれども、臨床でソーシャルワーカーの仕事をしている立場としては、この状況については共通の社会福祉士精神保健福祉士を基盤としてというところを考えていったほうがいいのではないかと考えているところです。(p21)


加藤雅江委員は、杏林大学医学部付属病院で精神保健福祉士社会福祉士として30年間の臨床経験を経て、2020年4月より杏林大学保健学部健康福祉学科教授に転身されている。日本精神保健福祉士協会常任理事という立場でです。
http://www.kyorin-u.ac.jp/univ/faculty/health/education/staff/detail.php?id=hea40386
https://www.mhlw.go.jp/content/11907000/000668374.pdf

宮島清委員は、日本社会事業大学教授。卒後埼玉県庁に入庁し、児童相談所等での24年間の臨床経験を経て教員に転身されています。
https://www.jcsw.ac.jp/about/outline/teacher/miyajima.html

山縣委員長のまとめる通り、社会福祉士を基礎資格として別のソーシャルワークの国家資格を作ることには反対の立場として、加藤氏と宮島氏が積極的に発言されていることが議事録からも分かります。但し、日本社会福祉士会副会長である、栗原直樹委員の発言はあまり見受けられません。

奥山眞紀子委員は、国立成育医療研究センターこころの診療部統括部長であり、日本子ども虐待防止学会理事長でもあります。
https://www.ncchd.go.jp/hospital/about/doctor/heart/o01.html

西澤哲委員は、山梨県立大学人間福祉学部・福祉コミュニティ学科教授。心理職を経て教員に転職。福祉人材を養成する学部で教鞭を取っていらっしゃるようです。奥山氏と同じく、子ども虐待防止学会理事でもあります。
http://prof.yamanashi-ken.ac.jp/prof/index.php/2012-01-25-11-28-11/2012-01-25-11-29-19/2012-01-25-11-30-37/69-2012-01-23-08-33-35

山縣委員長のまとめる通り、子ども家庭福祉に関するソーシャルワーカーの国家資格を作ることに賛成の立場として、奥山氏と西澤氏が積極的に発言されていることが議事録からも分かります。立場は異なりますが、子どもと家庭を守り支援するためにソーシャルワーカーが必要であるという思いを持ってくださっている点では、ありがたいですね。

奥山委員の、社会福祉士を基礎としてその上に専門分野として精神保健福祉士があるのならば、何故精神保健福祉士が別の資格としてあるのか。ならば、子ども家庭分野の専門性を高めたソーシャルワーカーもまた別建てで国家資格として作ればよいのではないか、という指摘は外から見たら指摘の通りだと思います。一方で、内部から見れば歴史的経緯(福祉分野の範囲に限定した社会福祉士と精神医療をも対象とした精神保健福祉士)を踏まえた議論を展開せざるを得ません。その中において、加藤委員が日本精神保健福祉士協会の常任理事の立場で「先々の問題、先ほどの10年、20年というところの視点で行くのであれば、資格が1つになるということは理想だと思います。」と述べたことは大変見識のある発言だと思いました。

私も、医師と同じように将来的には社会福祉士という基礎資格があり、その上に専門分野の認定があるのが良いと考えます。医療ソーシャルワークもまた社会福祉士を基礎資格とした上での専門分野という理解をしています。これは理念上もですが、実務上においても、数による交渉力の向上という点からも望ましいと考えます。

また、議論を和ませる言葉も適宜入れられているところは大変素晴らしく、このような発言力のあるソーシャルワーカーがいらっしゃることを誇りに思いました。なお、一部委員の中には、言葉使いが荒い方もいらっしゃる様ですが、議事録になるとそれが丸わかりになることも興味深かったです。

■参考
厚生労働省令和元年度子ども・子育て支援推進調査研究事業『児童相談所の専門職の資格の在り方その他必要な資質の向上を図る方策に関する調査研究報告書(代表:相澤仁)』令和2年3月
https://www.murc.jp/wp-content/uploads/2020/04/koukai_200427_11_1.pdf
※検討委員会メンバーは主に日本子ども虐待防止学会の会員で構成されている。「社会福祉士精神保健福祉士の資格を取得するための専門性のみで、現在の児童福祉司の業務は行えると思うか」という設問や、社会福祉士の資格の有無や資格取得ルートを確認しているが、所属団体で日本社会福祉士会や日本精神保健福祉士協会を例示しないなど、一部意図的な質問が見受けられる。