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傷病・認知症など様々な理由で一時的にあるいは恒常的に判断能力があいまいかない患者が入院。複数の職員で本人の手がかりとなる情報を探します。また、地域包括や役場、社協、保健センターなど本人の身体属性をみつつ関係機関にも照会をかけます。それでもなお、本人をサポートしてくれる人が見つからない場合、医療費支払が困難であろうということから窮迫保護が必要な人がいると福祉事務所へ連絡をします。この時点では、本人から話を聞けないので、あくまで本人の資産は分かりません。福祉事務所は、本人から申請の意向は確認できないですが状況を加味して職権保護する必要があると判断した場合は、決定します。その後、本人が国民健康保険に加入していた場合は使用できないので一旦保険証は返還。この後、本人の判断能力が回復し、生活保護を受けなくても良い程の資産があることが判明すると、生活保護は廃止。国民健康保険の返還中の医療費を10割で返還しなければならない場合があります。窮迫保護をした福祉事務所、連絡をした医療機関は急迫を支援したはずですが、結果的に本人に国保以上の自己負担を強いることになってしまい、やりきれない気持ちになります。

この現象は、生活保護受給中は国保が利用できないという歴史的経緯(被用者保険は併用可)と、生活保護は申請した日あるいは職権保護が必要な市民について社会福祉事務所に申し入れた日からしか認められない(遡らない)しくみ、の2つに起因する課題です。今月の『賃金と社会保障』は、生活保護法第六十三条(費用返還義務)をめぐる今年度の最新判例を特集しています。急性期のMSWは要チェックですね。私も早速、職場の司書に文献複写依頼します。

生活保護法第六十三条
「被保護者が、急迫の場合等において資力があるにもかかわらず、保護を受けたときは、保護に要する費用を支弁した都道府県又は市町村に対して、すみやかに、その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還しなければならない。」


『賃金と社会保障』№1765,2020,11月上旬号

特集 生活保護法63条・医療扶助費10割返還に取消判決 山川幸生+髙木佳世子

特集◎生活保護法63条・医療扶助費10割返還に取消判決
*生活保護法63条による「医療費10割返還」を違法とした東京高裁令和2年6月8日判決(本号38頁)[山川幸生]
*職権で生活保護が開始された成年後見申立て予定の認知症高齢者が後見開始後に受けた、医療扶助費全額を含む保護費返還額決定について裁量権の逸脱濫用とした事例-東京高裁令和2年6月8日判決 本号38頁[髙木佳世子]
社会保障社会福祉判例◇医療扶助費全額返還決定取消請求事件・東京地方裁判所判決(令和元年7月30日)東京高等裁判所判決(令和2年6月8日)生活保護法25条に基づく職権保護を受けた者に対して同法63条により医療扶助費の全額の返還を求めた処分が違法であるとして取り消された事例