諸永裕司「ケースワーカー配置標準、7割満たさず 主要107市区」『朝日新聞』2020年12月18日

諸永裕司「ケースワーカー配置標準、7割満たさず 主要107市区」『朝日新聞』2020年12月18日
https://digital.asahi.com/articles/ASNDJ560NNCZUUPI002.html

リード文を転載。

生活保護受給者の支援にあたるケースワーカー(CW)の人手不足が解消されない。指定市・東京23区・県庁所在市・中核市の全国107市区のうち、社会福祉法で決められたCWの配置標準を満たしていない自治体は昨年度、77市区と約7割にのぼることが、厚生労働省の調査でわかった。今後、新型コロナウイルスの影響で生活保護の申請が増えれば、十分な対応がとれなくなる可能性がある。

本記事に登場する、桜井啓太氏(立命館大学准教授)の指摘で印象に残ったのは、以下の点。


・ちょうど、生活保護の利用が急増していた時期ですね。その後、利用者は15年をピークに減少に転じ、昨年度は約207万人と、ピーク時から約10万人減っています。いわば「平時」になっていたわけですが、それでも7割もの自治体で人手が足りないというのは無視できません。

新型コロナウイルスの対応でも、これまで保健所の職員を削ってきた結果、PCR検査などの業務が回らなくなった、という苦い記憶がありますよね。生活保護でも似たことが起きるのではないかと危惧しています。

背景には公務員の人員削減の流れがあり、2000年に施行された地方分権一括法が地方自治体の人手不足に拍車をかけました。そのなかで、セーフティーネットを担うCWも例外ではなくなっています。自治体はCWを増やすことができないと、非常勤・非正規職員の活用でしのいでいる、というのが実態です。それだけに、人員体制を決める権限をもつ自治体の責任は大きいと思います。

・今年度から会計年度職員という制度が導入されましたが、1年契約で給与も低く、とても不安定です。多くの自治体では非正規職員がいないと業務が回らないにもかかわらず、待遇は低く抑えられたままです。

・いま、政府は生活保護にかかわるケースワーク業務の外部委託化を検討しています。そうなると、セーフティーネットを担う仕事と責任が行政から切り離されていく。リーマン・ショックの後に非正規労働が拡大したように、コロナショック後に外部委託化が進み、いつしか常態化するのではないかと危惧しています。


ケースワーカー配置基準
2002-2004年に大学院生だったころ、ホームレス支援団体笹島診療所の有給ソーシャルワーカーだった。名古屋市中村区や中区役所でホームレス状態にある人々の生活保護申請支援を行なっていたが、その頃もケースワーカー1人あたりの担当者数は100名を超えており、15年近く経った今でも状況が変わらないことを再確認した。ケースワーカーは効率的に業務を行わざるを得ず、受給者を支援の度合いごとにカテゴリー化して関わる頻度を決めていた。施設・病院にいる受給者は訪問頻度が0か年に1回程度でとても退所・退院支援に手が回っていなかった。無料低額宿泊所もこの頃には登場しており、これらも最低限の支援(簡易の相談・食事の提供)があるためケースワーカーに重宝されていた。アパートで一人暮らしを開始しても、食事・ゴミ出し・近所づきあいなどの難しい場合、生活が破綻して再度路上に帰ってしまう受給者もいるため、無料低額宿泊所は一時的な場所ではなく恒常的な生活の場になってしまっている。実際に名古屋市内にある無料低額宿泊所一覧をご覧いただければ、どこかに違和感を感じるであろう。無論、高い人権感覚を持って無料定額宿泊所を運営している団体もあるが、それを見分けることは受給者・ケースワーカーには困難である。

ケースワーカーの非常勤化・外部委託化
2020年9月に開催された公的扶助研究会主催のシンポジウムでも外部委託に関する危惧が指摘されていた。医療機関に務めるソーシャルワーカーは、生活保護を活用することが日常的にあるが、クライエントが最初に行く生活保護相談窓口の段階で非常勤職員が対応したのかそうでないかはこちらには分からない。無論、非常勤職員=質が低い訳ではないが普通に考えて「指示された範囲の中で説明すること」が役割となる。自由裁量がない。その指示が昨日紹介した「生活保護の申請について、よくある誤解」に挙げられたような内容だった場合、まさに水際作戦となる。クライエントは、ぎりぎりの経済状況・精神状態の中でソーシャルワーカーに後押しされて相談に行くため、そこで躓くとなかなか次に繋がらなくなってしまう。

外部委託化については、既に生活困窮者支援において「最初から生活保護の相談は受け付けない。まずは社協の生活困窮者自立相談支援機関に行きなさい。」と強硬な姿勢を崩さない自治体がある。委託された社協職員は、相談者と生活保護担当部門との板挟みで非常にストレスを感じており、一緒に仕事をしていてとても心配になる。相談窓口や家庭訪問などを外部委託化した際、裁量の無い職員の一部がストリート・レベル官僚の立場を利用してクライエントに牙をむくことがないよう、願ってやまない。

ソーシャルワーカーは上記、生活保護行政を取り巻く環境の変化を頭に入れて連携・交渉をしていく必要がある。

■関連
みわよしこ生活保護ケースワーク「外部丸投げ」で始まる、福祉現場の崩壊」『DIAMOND online』2020年1月24日
https://diamond.jp/articles/-/226728

・坂井雅博「『会計年度任用職員』導入による公務員制度の大転換」『自治体問題研究所』2018年4月15日
https://www.jichiken.jp/article/0080/

総務省自治行政局公務員部「会計年度任用職員制度について」(発表年不明)
https://www.soumu.go.jp/main_content/000638276.pdf

所沢市「会計年度任用職員とは」2020年1月22日
https://www.city.tokorozawa.saitama.jp/shiseijoho/jinzaibosyu/kaikeinendoninyo/syokukainen.html