これから出る本

吉永純『生活保護審査請求の現状と課題――簡易・迅速・公平な解決をめざして』明石書店,2020年12月31日



〇内容
生活保護制度では、権利侵害に対する裁判の前に都道府県知事に審査請求を行う必要があり、そこで出た裁決を調べることで行政運用の実態検証が可能になる。本書は2006年度以降約400件の裁決の分析を踏まえ、あるべき生活保護運用についての提案を行う。

〇目次

第1部 生活保護審査請求制度の現状と課題

第1章 生活保護審査請求の現状と課題
 第1節 生活保護審査請求の制度的意義
 第2節 審査請求制度の現状

第2章 改正行政不服審査法施行後の生活保護審査請求と裁決
 第1節 改正行政不服審査法の概要
 第2節 生活保護における行政不服審査会等の状況(その1)-行政不服審査会の答申状況(生活保護
 第3節 生活保護における行政不服審査会等の状況(その2)-行政不服審査会答申等の事例検討
 第4節 小括

第2部 主要争点別の行政運用、判例、裁決の状況

第3章 保護の申請
 第1節 問題の所在
 第2節 行政運用
 第3節 判例
 第4節 裁決
 第5節 争訟例を踏まえたあるべき行政運用

第4章 自動車
 第1節 問題の所在
 第2節 行政運用
 第3節 判例
 第4節 裁決
 第5節 争訟例を踏まえたあるべき行政運用

第5章 稼働能力
 第1節 問題の所在
 第2節 行政運用
 第3節 判例
 第4節 裁決
 第5節 争訟例を踏まえたあるべき行政運用

第6章 扶養
 第1節 問題の所在
 第2節 行政運用
 第3節 判例
 第4節 裁決
 第5節 争訟例を踏まえたあるべき行政運用

第7章 世帯単位
 第1節 問題の所在
 第2節 行政運用
 第3節 判例
 第4節 裁決
 第5節 争訟例を踏まえたあるべき行政運用

第8章 指導指示
 第1節 問題の所在
 第2節 行政運用
 第3節 判例
 第4節 裁決
 第5節 争訟例を踏まえたあるべき行政運用

第9章 費用返還(法63条)
 第1節 問題の所在と論点
 第2節 行政運用
 第3節 判例
 第4節 裁決
 第5節 争訟例を踏まえたあるべき行政運用

第10章 不正受給(法78条)
 第1節 問題の所在
 第2節 行政運用
 第3節 判例
 第4節 裁決
 第5節 争訟例を踏まえたあるべき行政運用

 あとがき
 初出一覧
 判例索引

〇コメント
審査請求に焦点を当てた本書。よくぞ書いてくれた!という感じ。病院で審査請求をすることななかなかハードルが高い(入院期間中に結論がでない)ためできませんが、笹島診療所時代に藤井克彦さんがここぞという時に行っていました。福祉事務所の誤った生活保護運用を正すために有効な方法だと思います。


 朝比奈 ミカ・菊池馨実編『地域を変えるソーシャルワーカー岩波書店,2021年1月9日



〇内容
子ども、高齢者、障がいのある人、そして生活に困窮する人たちを日々地域で支えている民間や自治体などのソーシャルワーカー。コロナ禍の各地での実践、法的な裏付け、よりよい暮らしのための新たな試みを具体的に語る。

〇目次
はじめに
ソーシャルワーカーは何ができるのか――コロナ禍での経験を通じて……………朝比奈ミカ
【コラム】 子どもたちは……………上條理恵
相談支援とは何か――その理論的基盤……………菊池馨実
【コラム】 伊賀市社会福祉協議会による新型コロナウイルス対策緊急支援活動……………田邊 寿
座談会 コロナとともに生きる時代に、できることとは……………梅澤岳、大戸優子、渋沢茂、松本拓馬、宮間恵美子/司会 朝比奈ミカ
【コラム】 「命に寄り添い、命を輝かす」……………馬場篤子

〇コメント
昨日の記事で紹介した、朝比奈ミカ氏と早稲田大学の菊池先生による編著。朝比奈氏は支援を普遍化した視点から菊池先生は「手続的現物給付」という概念を用いて社会保障法学の立場から相談支援に理論的基盤を提示しようとしている。注目の2人による岩波ブックレット


村上武敏『医療福祉論――退院援助をめぐる社会科学的な探究』明石書店,2021年1月21日



〇内容
医療ソーシャルワーカー(MSW)の援助対象者の生活実態調査および国民生活と社会保障の動向について総合的に検討するなかで、「医療福祉」とは何かを社会科学的に明らかにするとともに、貧困と社会的孤立が拡大する現代にあって、誰一人あきらめることのない相談援助の方法論について提起する。

〇目次

はしがき

序章 医療福祉の対象と方法をめぐって――本研究の課題
 第一節 本研究の課題
 第二節 本研究の目的と方法

第一章 医療福祉の対象論にかかわる先行研究と本研究の位置づけ
 第一節 「医療福祉」概念の概観
  1.「医療社会事業」の定義(1950年代~1970年代)
  2.「医療福祉」「医療ソーシャルワーク」の定義①1960年代~1970年代
  3.「医療福祉」「医療ソーシャルワーク」の定義②1980年代~1990年代
  4.「医療福祉」「医療ソーシャルワーク」の定義③2000年代以降
  5.各論者の定義をふまえて、改めて「医療福祉」とは何か
 第二節 先行研究と本研究の位置づけ
  1.先行研究における対象認識の傾向
  2.社会科学的認識による対象論
  3.方法論研究の視座

第二章 MSWの実践の特異性と対象認識の変化
 第一節 医療におけるMSW発生の経緯と実践の特異性
 第二節 『医療と福祉』誌にみる1990年代以降のMSWの対象認識
  1.1990年代以前におけるMSWの対象認識(1980年~1989年)
  2.1990年代以降におけるMSWの対象認識
  3.MSWの対象認識の変化と今日における特徴

第三章 医療福祉における対象者の生活実態――対象の社会科学的認識を目的として
 第一節 研究目的と研究方法
  1.研究目的
  2.研究方法
  3.本研究における倫理的配慮
 第二節 退院援助対象者の一般的特徴
  1.年齢階層
  2.傷病名
  3.身体的状況
  4.家族構成
  5.転帰─退院後の行先
  6.経済的状況
  7.住宅状況
 第三節 退院援助対象者の生活実態
  1.「単身世帯」にみる貧困と社会的孤立
  2.「夫婦のみ世帯」にみる介護の条件の不在
  3.「子と同居世帯」にみる経済的自立の困難さ
  4.低所得貧困層にみる生活問題の重層性
 第四節 退院援助対象者の生活問題の社会的規定要因
  1.産業構造の転換と介護問題
  2.経済的問題の背景にみる傷病と労働
  3.ホームレス退院事例にみる社会的背景

第四章 1990年代以降における国民生活と社会保障の特徴
 第一節 1990年代以降の国民生活の特徴
  1.労働問題と低所得貧困層の拡大
  2.社会的孤立の拡大
 第二節 1990年代以降の社会保障の特徴
  1.低所得階層対策の不在
  2.医療費抑制政策としての地域包括ケア
  3.見えない「責任を負う主体」

第五章 考察――医療福祉の対象と方法
 第一節 医療福祉の対象について
  1.対象は「国民一般」ではない
  2.多元的ニーズという誤謬
  3.対象は問題か、問題を抱えた人か
  4.医療福祉と社会福祉の異同
  5.医療福祉の射程
  6.医療福祉の実践の対象
 第二節 医療福祉の対象把握から実践方法への展開
  1.生活理論に基づくアセスメント
  2.医療に立脚した社会福祉実践
  3.公的責任の担保された地域づくり

終章 医療福祉の課題と展望
 第一節 研究結果
  1.階層的な対象認識の必要性の提起
  2.「医療福祉」概念の整理に資する知見の提示
  3.制度的限界を超える方法論の示唆
 第二節 本研究の限界と医療福祉の課題と展望
  1.本研究の限界
  2.医療福祉の課題と展望

 あとがき

 参考文献
 巻末資料
 執筆者紹介

〇コメント
硬派な内容。静岡地域でMSWを輩出する代表的な研究室の1つになっていると関係者より伺ったことがある。