新田秀樹「時事評論 生活保護受給者の国保等への加入」『週刊社会保障』№3108,2021.2.25,pp.32-33

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新田秀樹「時事評論 生活保護受給者の国保等への加入」『週刊社会保障』№3108,2021.2.25,pp.32-33

2020年10月8日に財政制度審議会財政制度分科会において、財務省より『社会保障について①(総論、医療、子ども・子育て、雇用)』が提出され、その中で生活保護受給者の国保後期高齢者医療制度への加入が提案されました(スライド44)。これを受け、同年12月13日に厚生労働省社会保障審議会医療保険部会が取りまとめた『議論の整理』では、

日本国憲法第25 条に定める、社会保障制度の最後の砦となる生活保護制度において果たすべき国の責任を放棄し、国の財政負担を地方自治体や国民に付け替えるものであり、容認できない。
・国と地方との信頼関係に基づき実施している社会保障制度の根幹を揺るがし、国民健康保険制度等の破綻を招くものであることから、強く反対する。
との意見があった。(p25)

と反対意見のみが掲載されている。本件は、持越し案件となった。

本論文は、財務省厚生労働省社会保障審議会医療保険部会による「生活保護受給者の国保等への加入」をめぐるそれぞれの主張を整理し、論点を検討しており一読に値する。また、生活保護医療保険介護保険の関係についての歴史的経緯についても触れており参考になる。

■印象に残った言葉
・1997年に創設された介護保険制度においては、制度創設前の特別養護老人ホーム入所者の相当数が生保受給者であり、そららの者が制度創設後に介護保険の被保険者から外れることは不自然であるとの政策判断から、65歳以上の地域住民については生保受給者であっても介護保険を適用し第1号被保険者とした。(p33)
・1961年の皆保険達成時は、国保の被保険者が生保を受給することとなっても3か月間は生保受給者を国保被保険者のままとする取扱いとなっていた。しかし、こうした取扱いはわずか2年間で改められ、現在のように生保受給者には国保を適用しないこととされたが、その主な理由は、国保の財政悪化と診療報酬請求事務の煩雑化を避けるためであった。(p33)

生活保護受給者の国保等への加入については、医療保険部会の『議論の整理』で指摘する通り、国の責任の不明確化と国保等財政悪化が最大の懸念事項である。実務の課題としては、国保加入者が容体の急変などで意識不明のまま窮迫保護を受けたのちに資産調査によって一定以上の資産があることが判明した際、国保から脱退して10割を医療扶助で支払っていることから、国保の自己負担部分ではなく、医療費の10割負担分が請求されることになる。この際、職権保護をしたことが裁量権の逸脱濫用と認められる判例もあり、生活保護担当部署はどうしても窮迫保護の決定に慎重とならざるを得ない(以前の記事)。国保等の継続加入が認められる場合はこの課題は解決する。とは言え、もっと大枠での懸案事項の比重が大きく、「職権保護のジレンマ」は今後も続くであろう。MSWも無邪気に「職権保護をしてください」ではなく、可能な範囲で判断能力が一時的にか永続的に低下した緊急入院患者の情報を収集する必要がある。この話は、成年後見制度の迅速な決定がなされない課題とも繋がる。