養成校・学術団体・職能団体の連携

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職能団体の諸事業の1つとしての研修
職能団体は、自らの職種が信じるもの(目的・価値・理念)を踏まえて市民に資すると考える諸事業に取り組みます。その諸事業の1つに、研修があります。よく職能団体=研修と思われがちですが、職能団体では他にもロビー活動、調査研究、公的会議への出席、他団体との協働、啓発活動など多岐に渡る事業があります。会員から頂いた会費はこれら諸活動を行うために発生する経費に充当するための貴重な原資となります。とはいえ、会員にとっては「目に見えて」「直接効用を実感できる」のはやはり研修だと思います。

職能団体には大小あり、数十名の事務局スタッフを雇用し、自社ビルを持っているところから、事務局スタッフも自社ビルもなく理事同士で細々とやりくりしているところまで実にさまざまです。また、法人格を有していいるか任意団体であるかといった違いもあります。ソーシャルワーカーの職能団体の場合、現在は法人格を持っていることが一般的になってきました。都道府県医療ソーシャルワーカー協会がやや出遅れています。最初から法人格を持った大きな職能団体に加入している場合、会員に実感は伴いませんが、理事同士で細々とやりくりしている職能団体が法人格を取得する際しては、かなりご苦労されたのではないかと想像します。法人化の労を取られた担当者のみなさま、本当にお疲れ様です。

運営スタッフのお仕事
職能団体のなかで、研修を担当する運営スタッフ(理事や自主メンバー)は実に様々な研修を開催しています。職能団体側から見てこういう人材を育てたい、会員はこういう学びを求めているはずだと色々議論し、いくつものテーマで研修を開催する訳です。基本的にゼロからあれこれ考えて、シラバスやプログラムを構想し、適切な講師を人選し、当日の運営を行うといった一連の作業はとてもワクワクするものです。研修中の受講者の反応やアンケート結果に運営スタッフは一喜一憂します。講師からのフィードバックも踏まえて、また次年度の研修企画を練る。これの繰り返しです。

しかし、運営スタッフも長年固定ではなく理事の改選などによって次々に替わっていきます。エネルギーに満ち溢れた人であれば楽しく研修企画を運営できますが、みんながそうではなく、「何とかこなせた・・・」とギリギリで運営する場合もあります。他に仕事や家庭を持ちながら片手間でやるのだから仕方がありません。とは言え、職能団体の信じるものを念頭に自分を奮い立たせてより質の高い研修を開催できるよう日々頑張っている訳です。

特にこの1年はコロナ禍でオンライン化が進み、研修会場の準備も不要となったため、機材さえあれば距離を問わずに簡単に研修が開催できる様になりました。オンライン研修には集合研修に比べて出来ないこともありますが、実際にやってみると色々やれることに気づかされます。MSWは女性の割合が高く、また子育て世代の会員も多いため、「子育て中で研修参加を諦めていた。けれどオンラインだから、子どものお昼寝中に視聴できてよかった」「移動しなくていいの、効率的に動けて助かる」といったコメントを多くいただきます。これまで届けられていなかった層にも研修が届くようになったことを謙虚に受け止める必要があります。運営スタッフがやろうと思えばいくらでも研修が開催できる環境がコロナ禍によって、突如物凄いスピードでできあがりました。

既存のリソースと繋がる
とはいえ、開催できる研修の数や対応できる研修テーマにはおのずと限りがあります。運営スタッフ(多くは無報酬)は研修開催だけで生きている訳ではなく、仕事と家庭があるからです。このギャップにどうやって折り合いをつけるか。結論的には、既存のリソースと繋がることが必要になってきます。ここでいう既存のリソースとは、ソーシャルワークの分野では、養成校としての大学(大学院含)や日本社会福祉学会・日本ソーシャルワーク学会などの学術団体を指します。

養成校には、多くの人材(講師・職員)や機材があります。彼らは独自に学生・陰性以外に対しても、研修や教育プログラムを企画し開催しています。しかし、それらの情報はあまり職能団体に流れてくることはありません。理由はいくつか考えられます。

職能団体側
・同じ養成校の中でも色々な部門があり、それぞれから連絡があるので手間がかかる
・チラシを会報と併せて郵送する場合、手間が増えるので無料という訳にはいかない
・一部の大学の案内をするのは公平ではないのではないか

養成校・学術団体側
・職能団体のどこが窓口なのか分からないから研修情報を流しようがない
・チラシは印刷してお渡しできるが、有料でしかチラシを同封頂けないとなるとコストがかかる

なお、これまで養成校や学術団体と職能団体が連携できていなかった訳ではありません。ソーシャルワーク分野に限って言えば、各職能団体のホームページを見て頂くと、チラホラ養成校や学術団体が開催するイベントのお知らせが掲載されているのが確認できると思います。また、ソーシャルワーカーデーが始まったことにより定期的な交流も生まれました。ただ、その連携の線は細く、時に途切れる状況にあります。お互いに担当者が交代した時が、連携が途切れる主なきっかけだと想像します。ここを改善する必要があります。

あるべき姿
改善方法として考えられるのは、双方で窓口担当者を決め文章により協定を結ぶことだと思います。担当者レベルの個人的繋がりに頼るのではなく組織対組織で公に連携を図るということです。無論、協定を交わしたとしても自動的に事が進む訳ではありません。その後も担当者同士が日常的に連絡を取り合える関係性を築いていく努力が必要です。理想としては、日本ソーシャルワーカー教育学校連盟のブロック・日本社会福祉学会の地域ブロックと日本ソーシャルワーカー連盟のブロックという枠組みで協定を結び、協議体を設置し、定期的に会合を持つことだと考えます。その中で、行う活動としては次の5点が挙げられます。

ソーシャルワークをとりまく養成・政策・臨床の動向共有
・双方で開催する研修や履修プログラムの共有。各職能団体で会員に知らせる手順の標準化
・講師人材の相互派遣
・実習教育に関するあらゆる活動(実習受け入れ可能機関の共有・実習プログラムの標準化・実習報告の共同開催)
・共同研究

特に職能団体から養成校に望むこととしては、会場や撮影機材・人材の安価な提供による職能団体の支援、図書館(書籍の貸し出しと文献複写依頼)の利用です。養成校・学術団体にとっても、臨床家の講師派遣や実習先の確保・共同研究は魅力的なものではないでしょうか。

これは決して私の独りよがりな考えではありません。厚生労働省社会保障審議会福祉部会福祉人材確保専門委員会『ソーシャルワーク専門職である社会福祉士に求められる役割等 について』平成30 年3月27日においても、次の通り述べられています。

職能団体や養成団体等が中心となり、現任の社会福祉士が、地域において、他の専門職や地域住民等と協働してソーシャルワークに関する知識・技術や実践事例等を学び合い、それぞれの力を合わせながら実践能力を向上させることができるような場づくりを推進することが必要である。」

これを当事者の1人として、実現したいということなのです。

実際に協定が結ばれても、決して順風満帆ではなくより高次の管理能力・交渉能力が双方に問われますし、良好な関係を維持するための並々ならぬ努力が求められます。でも、それでいいと思います。他の業界と伍していくためにもより高いステージにソーシャルワークの業界も移行するということです。自らの職種が信じるものを踏まえて市民に資するために、この業界が社会的地位を高め、発言権を持つことが重要と考えます。

「あるべき姿」と「現実」のギャップを問題として定義・見える化し、それを情熱をもって暫時改善していくということです。とはいえ、決して一人で出来ることではありません。私自身、職能団体で実績を積み上げて、繋がりを増やし、一緒にことを成し遂げてくれる仲間を増やすことが必要です。本記事をご覧になっている職能団体・養成校・学術団体の方々へ、まずはご自身の出来る範囲で組織の合意形成を図ってください。そして自らが組織を代表する立場になった時、共に取り組みましょう。私自身も、何年後・何十年後にこの記事が実現できるよう、一つずつ取り組んでいきたいと思います。