植村新ほか「地域中核的病院におけるDPC導入に際しての医療の質と採算性に関する検討-循環器疾患を通しての一考察-」『社会保険旬報』№2257,2005,pp.10-16

【価値判断】○    【論文の種類】量的調査

【要旨】

地元、愛知県南三河地区の1自治体病院(382床)を調査対象とした、循環器疾患(A:急性冠動脈疾患群/B:慢性心不全急性増悪群)に関する、一般診療報酬とDPC方式による報酬を仮定した場合の採算性を比較検討した研究。結果は以下2点。①地域の中核的病院では、DPCに報酬体系を変更しても、急性心不全、急性心筋梗塞など循環器疾患に限定した範囲ではかなりの利益が確保されるものと考えられる。原価管理を行うことにより、DPCは病院経営上有利に働くことが示唆される。②DPC導入に際し、医療の質の担保に関して、評価方法は一元的再入院率ではなく、特定機能病院、地域の急性期病院や療養型病院など病院機能別に類型化し、診療科毎の標準化した具体的監査システムを確立すべきである。また医療の質評価の担い手としては、専門医がふさわしい。

【メモ】

医療の質評価指標として、筆者らは当該施設における①再入院、②在院日数、③死亡率を考察している。

・再入院評価には、薬剤副作用による再入院と基礎疾患の合併症による再入院の鑑別など、なお一層の多角的検討が必要である。(p.14)

アメリカの医療を論じる場合、平均在院日数の短縮化に伴い、状態不安定なまま自宅やナーシングホームに戻らざるを得ず、結果として急性増悪を起こし、まもなく再入院となってしまう割合が高いという批判が存在するが、厳密には上記のように再入院の理由を分けて論じる必要があろう。

・(在院日数に関して)退院基準は、入院第一病日にクリティカルパスに沿って主治医から説明があるものの、退院日決定は、患者ならびにその家族の意向を尊重することで、ずれ込む可能性がある。高齢患者では、送迎方法から退院先、家族の受け入れ態勢の準備に至るまで手間を要するからである。一方、勤労世帯の患者では民間保険の普及により、早期退院が必ずしも患者本人の利益にはならず、逆に入院期間が長引くほど本人の収入が増え早期退院の足かせとなるようなケースがあった。このように、「臨床指標」に家庭・個人の事情が関与する事実が明らかとなった。数日から一週間程度の社会的入院を許容する地域病院の特性は、在院日数が医療の質評価指標として厳密性に欠ける可能性があることを示唆している。(p.15)(下線は、筆者)

クリティカルパスにおけるバリアンスの問題とMSWの関連性については、以前、第14回日本医療社会福祉学会(2004.9@文京学院大学)にてNTT東日本関東病院のMSWの方が興味深い報告をされていた。援助フローモデルを作成し、問題なく、転院選定を行えるケース(Aコース)と、諸問題があるために、援助時間をかける必要があるケース(Bコース)にわけて、その援助過程をフロー図化する。そして、特にBコースのケース群に対して、計画通り退院が進まない理由を他職種に示して、クライエントの権利を保障しつつ、その上でMSWとしてクライエントに援助を行う根拠立てをするというものであった。

この辺りの問題にもう少し、積極的にMSWが関われればと思う。「クライエントの権利を守りつつ、バリアンスを解消する人材としてのMSW」という存在は、チーム医療を行う上で重要であると考える。但し、ここでいう問題とは、病院側から見た管理運営上の問題であって、クライエント・家族が問題なのではない。また、クライエントの権利とは、職種・組織・社会の論理による一方的な退院ではなく、外部からの適切な情報提供及び支援に基づく(時に教育も必要だが)クライエント/家族の主体的な決定による退院を保障するということである。下線部については、今まで思いもつかなかった理由であり、大変興味深い。