社会保障審議会介護給付分科会(第39回)/介護老人保健施設/在宅復帰

はじめに 06/1/26、介護給付費分科会(第39回)が開催され、平成18年度介護報酬の基本単価(案)が公開された。介護保険制度全体の評価については専門雑誌等に譲り、ここでは老健の支援相談員業務に関連する部分のみを取り上げることとする。 結果 事実認識として、以下2点が新設される。


1.在宅復帰支援機能加算  10単位/日(※介護保険3施設共通) 退所後の在宅生活について本人・家族等の相談支援を行うとともに、居宅介護支援事業所や主治医との連携を図るなど、在宅復帰支援を積極的に行い、かつ、一定割合以上の在宅復帰を実現してる施設について加算を創設する。 →別に厚生労働大臣が定める基準に適合する介護老人保健施設であって、次に掲げる基準のいずれにも適合している場合にあっては、1日につき所定単位数を加算する。 イ 入所者の家族との連絡調整を行っていること。 ロ 入所者が利用を希望する指定居宅介護支援事業者に対し、入所者に係る居宅サービスに必要な情報の提供、退所後の居宅サービスの利用に関する調整を行っていること。 ※別に厚生労働大臣が定める基準の内容は以下のとおり。 ○算定日が属する月の前6ヶ月間において当該施設から退所した者の総数のうち、当該期間内に退所し、在宅において介護を受けることとなった者(入所期間が1月間を超えた者に限る。)の数が占める割合が5割を超えていること。 ○入所者の退所した日から起算して30日以内の期間に居宅を訪問し、又は指定居宅介護支援事業所からの情報提供を受けることにより、当該退所者の在宅における生活が1月以上の期間継続する見込であることを確認し、記録していること。 2.試行的退所サービス費  800単位/日 入所者であって退所が見込まれる者が、在宅において試行的に訪問介護等のサービスを利用する場合に、当該期間、施設サービス費に代えて算定する試行的退所サービス費を創設する。(1月につき6日を限度) ※施設はこのサービス費の範囲内で、訪問介護事業者等と契約して在宅サービス提供を行う。 ※外泊時の施設サービス費444単位/日は同時に算定できない。
考察 これらサービスへの私の価値判断は、以下の通り。 1.在宅復帰支援機能加算について 同加算を算定しようとした場合、今後は毎月、過去6ヶ月間の在宅復帰率を算出し、当月に同加算が算定できるかどうかをチェックする必要がある。当然、在宅復帰率5割を維持するために、利用者への処遇にも影響が出てくるものと思われる。(ちなみに平成15年度の老健における在宅復帰率は全国値で39.2%である。) 意図的な在宅復帰率操作(いったん在宅へ退所させてから、すぐに再入所させることを意図的に繰り返させることによって在宅復帰率を挙げる手法)を防止するためか、退所後1ヶ月以上在宅生活が継続できる見込みがあるか記録するようにと条件付けられているが、実際に保険者がどのようにしてその事実を事業所側に求めて来るのかは不明である。 今回の改定では、老健の施設サービス費(多床室)が1日あたり20単位減額(801→781)される案が明らかとなっている。昨年10月の改定における施設サービス費(多床室)の減額分18単位も併せると、計38単位の減額となっているため、それを埋め合わせする手段の一つとして、これまで積極的に在宅復帰支援を行ってこなかった老健が同加算の算定に乗り出す可能性もあろう。 なお、介護給付費分科会(第35回:05/11/25)では、在宅復帰支援機能加算の算定要件として、在宅復帰率に加えて、「平均在所期間が一定以下の施設」という基準も挙げられていたが、今回は見送られている。 また、介護給付費分科会(第36回:05/12/7)で再復活した「入所一定期間後からの介護報報酬逓減制」案についても、今回は見送られている。 総じて思うことは、従来のストラクチャーへの報酬から、アウトカムへの報酬へと徐々に報酬の算定構造が移行しつつあるということである。つまり、漠然とした運営だけでは、報酬は低く抑えられてしまうため、それに加えてプロセス・アウトカムにも力を入れなければ一般的な、あるいはそれ以上の報酬は受け取れないという仕組みになりつつある。 極端に言えば、良いケアをして早期に在宅へ復帰させてあげたいと思考するケア職と、いつまでも入所してもらっていた方が採算が良いと思考する経営陣という様に、制度から派生するお互いの思考の軋轢を軽減するためには有効な方法である。しかし、いずれにせよ利用者に悪い影響を与えないようにすることが前提であることは言うまでもない。 2.試行的退所サービス費について 通常の外泊の場合は、施設サービス費に替えて、要介護度に関わらず一律444単位/日が支払われる。上記の文章を素直に読むと、訪問介護事業者等と老健が事前に契約し、「試行的退所サービス費」800単位の範囲内で、施設の持ち出しによって、外泊先の利用者宅へサービスを外部委託にて提供することになる。 つまり、                      800単位-在宅サービス費=施設の取り分 となる。施設側が試行的退所サービスを利用し、かつ通常の外泊で得られる444単位を確保するためには、訪問介護のうち①身体介護30分未満の231単位、②生活援助30分以上1時間未満の208単位、③生活援助1時間以上291単位のいずれかのサービスしか利用させることが出来ない。無論、800単位ギリギリまで利用して在宅サービスを提供することも制度上可能であるが、わざわざ収入を減らしてまでサービスを提供するといった奇特な老健はまず存在しないであろう。 05/12/6の記事で、私は、「実際の業務において、数日間(老健では6泊/月の制限有)の外泊を試験的に実施する場合、介護保険施設入所者は、介護保険在宅サービスを利用できない。そのため、ともすると本当に家に帰った場合に想定される在宅生活(ベッド・車椅子をレンタル。日中は、ヘルパーや通所サービスを利用させて主介護者の負担感を軽減するといった方法)よりももっと過酷な生活(福祉用具実費貸与。サービス利用なしで、主介護者が付きっ切りで面倒を看る)を本人・家族に強いることになってしまう。」と書いた。 このサービスが利用できることで、それらの問題が解消され、「一定層のグループはよりスムーズに在宅へと移行できるかもしれない。」と期待していただけに、上記のような制約が設けられてしまったことは大変残念である。ただ、一切在宅サービスが利用できなかったこれまでに比べれば、ヘルパーが外泊中どこかにスポット(30分~1時間程度)で入ってくれるようになるといった点で一歩前進であることは確かだ。(但し、このようなスポット的な支援が実用的か否かは別途議論が必要である。) まとめ 以上、分科会資料を基に自分の興味関心に引き付けて述べた。しかし、情報がまだまだ少ないこともあり、私の理解が間違っていることも考えられる。そのため上記の仮定が必ずしも妥当ではないことをご容赦頂きたい。引き続き、今後開かれる分科会の資料や専門雑誌、新聞等で情報収集を行い、より良い援助につなげていく所存である。 補遺 同分科会当日、日本医師会介護保険委員会『高齢者医療・介護において果たすべき医師・地域医師会の役割』2005.12が配布されている。この中で、地域における患者(利用者)の自立支援システムという概念図が掲載されており、MSWが「在宅ケアへの対応」という役割で取り上げられている。病院の中で唯一無資格であるにも関わらず掲載されているということは大変奇妙な光景であるが、それだけ存在感があるということでもある。老健の支援相談員も含めSWHSは、もっと自らの業務について組織的かつ戦略的にアピールしていく時期にあるのだと思う。