上田雅子ほか「急性期病院の地域連携部署の実態と平均在院日数への影響」『日本看護管理学会誌』vol.8,№2,2005,pp.30-36

種類:量的調査 【要旨】 本研究の目的は、急性期病院の地域連携に関わる部署(以下、連携部署)の実態とその特性による平均在院日数への影響を明らかにすることである。病院要覧2003~2004年度版の神戸市内の救急告示病院全56施設のうち産科病院1施設を除いた55の急性期病院の看護部長を対象とした。39施設から回答が得られ(回収率70.9%)、35件を解析対象とした。 連携部署のある病院は28施設t約8割を占めており、連携部署の設置年数は平均3.5年と最近設置した病院が多かった。連携部署に医療ソーシャルワーカーがいる病院では有意に平均在院にすうが短かったことから、転院が多い急性期病院において医療ソーシャルワーカーの配置は平均在院日数短縮を図るために必要であることが示唆された。看護職配置の有無による平均在院日数への有意差はなかったが、連携部署の効果として「在宅療養患者の増加」があげられている病院の平均在院日数が短かったことから、在宅療養支援で今後看護職が機能していくことの重要性が示唆された。 連携部署の患者紹介課程として病棟からの紹介ルートがある病院、ならびに地域連携上の問題に「院内職員への地域連携の知識部職」をあげた病院では有意に平均在院日数が短かったことから、連携部署のみではなく、院内全職員の教育の必要性や紹介ルートのシステム化の重要性や看護管理者がこれらをサポートしていく重要性が示唆された。 【感想】 福岡の先輩MSWより紹介。ファーストオーサーの上田氏は、吹田市保健センターの職員。現場から研究報告ができるとういことは、是非見習いたいものである。神戸市内に対象を選定し、メゾレベルの分析を行い、平均在院日数短縮にMSWの配置が必要であるという結論を公表したことは、日本看護管理学会の学会誌に掲載される内容としては、非常に珍しい。筆者らの事実に基づいた研究報告を行う姿勢には見習うところが多い。 なお、「MSWは地域連携に関わる歴史は長いが、治療の継続が必要な患者に対し見通しをもった関わりが乏しく短い在院日数に困惑するMSWの実態が報告されている。」(p35)という指摘もなされており、この点については、紳士に受け止めて、今後も医学・看護学から学ぶ必要がある。 研究目的・方法・結果及び考察のまとめ方など、大変参考になる。個別の病院におけるミクロレベルでのMSWの配置効果についての先行研究は多いが、このようにメゾレベルでの研究は珍しい。また、マクロレベルでの研究も気になる。私の勤務している地域では急性期病院が少ないので、是非名古屋市内の病院を対象に、MSWが主体となって、同様の調査を行ってもらいたいものである。 よく分からなかったのは、「院内職員への地域連携の知識不足」をあげている病院では、平均在院日数が短いという結果である。普通、地域連携が取れていないのだから、転院させにくく、結果として平均在院日数が延びるのでは、と考えるが、むしろ逆のことが起こっているのは何故だろうか。 MSWの配置により、平均在院日数が相対的に短くなった病院の看護管理職は、更なる平均在院日数の短縮化や、在宅療養患者の増加を目指すために、次のステップとして「院内職員への地域連携の知識不足」を思考するのであろうか。