宮島洋「レコーダ 医療経済フォーラム・ジャパン主催 第5回公開シンポジウムから(上)基調講演Ⅱ」『社会保険旬報』№2299,2006.12.1,pp.13-16

講演構成 1.社会保障の規模と財源 国民の負担に変化が起こるか 2.付加価値税の導入に失敗した日本 3.医療制度改革の評価 予防重視、在院日数短縮 4.租税負担の転移効果が起こる4つの理由 5.急速に消費税議論をすべきだ 大変印象に残った講演録。以下、「編集室」(p46)より転載(赤文字は、筆者による)。


財政学のことばで転移効果というのがある。政府の大きさ、租税負担、社会保障負担の変化は、連続的に起こるものではなく、社会経済的な危機を契機にして急に増加し、その後はそれがあまり減らずに階段状に上昇していく。これを転移効果というと宮島氏は説明する。たとえば戦争。急激に増大した政府の支出規模、公的負担は戦後も維持され、福祉国家建設の財源に転用される。それは、世界大戦のときのヨーロッパ諸国にみられる歴史的事実だという。 付加価値税も第1次世界大戦のときにドイツ、フランス、イタリアが導入し、第2次大戦にかけて広がっていき、ヨーロッパ共同体の共通税制となっていく。1970年代までの経済成長期に、付加価値税タイプの税をきちんと定着できたかどうかが、今日の各国の財政や社会保障の規模を提起している。 ひるがえって、付加価値税の導入と定着に失敗した典型が日本だったと宮島氏は指摘する。低成長化の経済を下支えするのが付加価値税だが、日本にはそれがなかったため、財政規模や社会保障規模の抑制に向かわざるをえなかった。しかし今後、負担の許容限度を変化させ転移効果を生じる社会経済的な危機があるとして、宮島氏は、①急速な少子高齢化の進展、とくに後期高齢者の激増②施設から在宅への流れに伴う負担概念の偏り(税金費用の偏負・機会費用の軽視)③高度医療技術の国民への還元④付加価値税の役割の4つをあげた。 歴史をふまえた財政学者・宮島氏の予見は説得力に富み、傾聴に値すると感じた。

関連:junko kato,Regressive Taxation and Welfare State: Path Dependance and Policy Diffusion (Cambridge Studies in Comparative Politics) ,Cambridge Univ Pr (Sd) ,2003.09