二木立「医療制度改革と増大する医療ソーシャルワーカーの役割-社会福祉教育の近未来にも触れながら-」『二木教授の医療時評(その40)』『文化連情報』2007年5月号(350号),pp.42-46

二木立「6 医療ソーシャルワーカー資格制度化問題の混迷」『90年代の医療と診療報酬』勁草書房,1992以来の、二木先生のMSW論。2007年3月17日に開催された、日本学術会議社会学委員会社会福祉学分科会主催のシンポジウム「社会福祉教育の近未来」での報告に加筆したもの。 同論文は、「いのちとくらし非営利・共同研究所」のホームページ上に転載される予定ですので、ご希望の方は、UPされるのをこまめにチェックされると良いかと思います。 【要旨】 (価値前提) 社会福祉教育を含めて、専門職の教育のあり方は、理念先行ではなく、社会ニーズがどこにあるのか?を出発点にして考えるべき。2006年の医療制度改革により、医療ソーシャルワーカーに期待される役割が今まで以上に大きくなる。それに対応して社会福祉教育の更なる充実が必要になっている。 (「客観的」将来予測) 医療制度改革がMSWの業務に特に大きく与える影響は、以下4点である。①(低所得)患者の経済的問題への援助の役割が今まで以上に大きくなるのは確実、②保健・医療・福祉(介護)サービスの切れ目のない提供が求められるようになり連携機能をさらに強める必要がある、③在宅ターミナルケアを含めた在宅ケアの拡充が進められ、ネットワークづくりが強調される、④診療報酬点数表に社会福祉士が位置づけられたことにより、社会福祉士資格は事実上の必須資格となる。 (価値判断) 現行の社会福祉士養成教育の枠内だけでは、有能なMSWは養成できず、独自の追加的教育が必要。短期的課題は、以下3点。①国家資格合格率を高めるための特段の努力を払うこと、②「医学一般」「社会保障論」等よりも一歩進んだ医学・医療科目を開講するとともにそれの履修を奨励すること、③病院等での「医療福祉実習」の履修を義務化するとともにそれの学習目標に「連携機能」を位置づけること。 さらに、中期的課題として、医療ソーシャルワーカーの「マネジメント」能力の向上のための教育が不可欠である。ここでいうマネジメント能力には、臨床上のマネジメント能力だけでなく、施設・組織の管理・運営能力や基礎的な経営能力を含み、主として社会人対象の大学院または、日本医療社会事業協会等の専門職団体が行うのが妥当である。 【コメント】 即物的(by日本福祉大学平野隆之先生)な二木先生らしい論文。同論文では冒頭で、「現在では、私のゼミのOB・OGは愛知県医療ソーシャルワーカー協会の一大勢力になっています。」とも述べられており、何だか気恥ずかしい思いがした。 3月26日の記事で小山秀夫先生(静岡県立大学)が地域連携パスにおけるMSWの役割について述べているが、同様に連携がキーワードとなっている。二木先生の価値前提に倣えば、MSWの連携機能について、理念先行ではなく、社会・地域・組織ニーズがどこにあるのか?を出発点に、具体的に業務の中身について言語化していくことが臨床家には求められている。 そういった意味で、名古屋第二赤十字病院MSW坂本理恵ほか「MSWによる患者本位かつ効率的な退院援助」日本病院会雑誌』第53巻3号(2006年・3月号),pp.89-93は、連携に関する貴重な実践報告であろう。(何故かリンクが切れておりPDFデータがダウンロードできなくなってしまっている。) これを機に、各医療機関・福祉(介護)施設に所属するSWの名称を社会福祉士に統一できないものだろうか。所属機関によって名称が違うといった現状は、他職種からみてあまりにも分かりにくいし、我々自身も説明しづらい。その上で、分野別(例:介護老人保健施設における社会福祉士)に組織化されることは個々の自由であろう。もちろん、現在社会福祉士の資格を持っていないSWに対する救済策も別途講じる必要があるのは言うまでもない。 平成18年度の診療・介護報酬改定を踏まえると、少なくとも地域包括支援センターや回復期リハビリテーション病棟、HIV相談で社会福祉援助業務に従事するSWは、個人の思想に関わらず、肩書きに社会福祉士の名称を書かなければならないだろう。拒否するのであれば、今後社会福祉士を持った他職種にその業務を取って代わられる可能性を肝に銘じなければいけない。