研修4日目

晩に東海地区(愛知・三重・静岡)及び千葉合同交流会の予定だったが、増えに増えて27名の大所帯で交流会。全体の約25%、4人に1人が参加したことになる。単なる愚痴の言い合いに終止せず、前向きな形でSWとしての自己の課題について話し合うことが出来た。


1限 「ソーシャルワーク倫理と業務」 講師:堀越由紀子 氏(田園調布学園大学人間福祉学部準教授) 【内容】 冒頭で倫理的問題が生じ易い事例を7つ挙げ、それぞれについて研修生同士でディスカッション。その上で、ソーシャルワーカーの起源と発展、国際ソーシャルワーカー連盟(IFSW)によるソーシャルワークの定義、倫理綱領、医療ソーシャルワーカーの行動基準について解説。そしてまた、冒頭の事例に戻って行動基準と照らし合わせて解説。 【印象に残った文章・言葉】 ・オフィスベースのSocial Workが地域に移行していっている。 ・実践の延長線上にあるものが倫理である。倫理は上から与えられるものではない。 ・価値とは、「個人や集団あるいは文化によって望ましいとみなされる習慣、行為規範、原則」 ・倫理とは、「個人や集団や専門職あるいは文化によって慣習化された、道徳的原則、善悪に関する認識、行為哲学の体系」 ・ブトゥリム「ソーシャルワークの価値前提について」 ソーシャルワーカーは人間の生き方について基本的な関心を持っている。そのような問題はモラルを抜きにしては考えられない。それは、“望ましい人生”とは何か、(ここでいう望ましい人生の促進とは、抽象的なはるか遠くの思想にかかわることではなく、ひとりの人間あるいは人間集団の具体的な生活状況にかかわることである)かんするある種の信念と、望ましい人生をいかに求めていくかという、方法に関する倫理的な考察が基になっているはずである。ソーシャルワークは、現実的であるために哲学的でなければならない。 アメリカイギリスオーストラリアの倫理綱領も読んでみて下さい。日本に比べてもっと行動基準について書かれている。 【感想】 私が好きな臨床家であり、教育者。元北里大学病院MSW。現在も、週に数回眼科専門クリニックのMSWとして働いているとのこと。関心のある分野(研修のあり方、記録の標準化、病院機能評価など)の先行研究を収集すると、必ず堀越先生に行き着く。ただでさえ抽象的なテーマを、現実と摺り合わせつつとても分かり易く解説して下さった。堀越先生だからこそ出来た講義だったと思う。個人的には、教育者ではなく、第一線でまだまだ活躍して欲しかった。 【評価】 ○ 【参考】 ・ゾフィア・T・ブトゥリム(川田誉音訳)『ソーシャルワークとは何か~その本質と機能川島書店,1986
2限 「保険医療分野のソーシャルワーカーのあり方」※タイトル変更。 講師:佐原まち子 氏(東京医科歯科大学医学部附属病院医療福祉支援センター) 【内容】 MSWの日本における歴史及び日本医療社会事業協会の資格制度問題に関する対応経過、自己の職場でのSW実践、初任者としての自己研鑽の必要性について講義。 【印象に残った文章・言葉】 ・本研修の倍率は、3倍。 ・「実践的な判断」という言葉を覚えて下さい。そこの現場でどうやったら上手くソーシャルワークを展開していくことができるかを考えることです。外国の講師がSWの例えに使うのは合気道。相手の力に抗うのではなく、その力を上手く利用することが大切。 ・次回の診療報酬改定時、社会福祉士の記載は退院支援の辺りに着目を。 ・1病院当りのSW配置が増えてきている所もある様たが、果たしてその分仕事も能力を発揮できているか? ・部屋にこもっている時代はもう終わった。 ・他職種がいることはメリット。ソーシャルワークを相手に直接見せる機会となる。抵抗があるのなら、自分のSWに自信を持って。そのための方法を私も考えていかなければと思っています。 ・厚労省から「MSWを入れると、在院日数が減るデータを出して下さい。」と言われたが厳密なデータはとれなかった。というのも、MSWのいない病院に対して、MSWがいないことによる不利益があるか否かを明らかにするといった問題設定では情報提供してくれない。そのため、MSWのいる医療機関とそうでない医療機関の平均在院日数の比較はできなかった。 ・2014年に特例診療報酬制度(都道府県レベルで診療報酬の独自操作が可能となる)創設を厚労省が提案している。1病院だけが頑張れば良い時代から、1地域のパフォーマンスを上げないと評価されない時代になるかも。とすれば、地域全体が上手く回るようにMSWが働きかけるということも考えられる。 ・早期介入のためには、医師や看護師の協力が必要。「あなた方の専門性をより発揮して頂くために、私たちも専門性を発揮してお手伝いします。そのためにはより早期にご紹介下さい。」と説明する。 ・高齢者に空中で介護保険制度の話をしても、自分たちの立ち位置が分からない。制度紹介時にエコマップを利用して視覚化し、説明、アセスメント、プランニングを行い、お互いに情報を共有する。 ・患者家族が自己解決できるのであれば、それを援助できるようSWから情報を発信する。全てに対応していたら、何でも屋になってしまうし、業務量が膨大になってしまう。 ・相談者の3つのタイプ ①カスタマー・タイプ・・・主体的な相談者 ②コンプレイナント・タイプ・・・他人まかせな相談者 ③ビジター・タイプ・・・周囲に言われて嫌々来所した相談者 上記タイプを想定しつつ、エンゲージメントの概念を用いて対応する。(p15) ・昔上司に言われた言葉に「お給料の1割は研修に当てなさい」というものがある。今でも研修には継続的に参加している。 ・石塚真一『岳』小学館は、Social Workですよ!!読んだ方がいい。ビックコミックオリジナルに連載中です。 ・初任者は、スーパーバイズを受けたほうが良い。クライエントに許可を得てICレコーダーで自分とクライエントの面接を録音し、それを後から逐語録で起こす。そうするとバイザーに持っていく前から、自分にどんな癖があるのか嫌というほど分かります。 ・クライエントの生き方やり方に注目。私はこれにこだわっている。効果的に早期にアセスメントをするために役立つ。クライエントを極力解釈しない。(p18) □クライエントの物事の決め方をおそわる □家族の協力の仕方をおそわる □今まであった困難の解決の方法を知る □クライエントの情報の集め方 □どういう人とつながっているか □うまくいっていたことは何か □それが続いてたのは何が良かったか 【感想】 SW歴30年の大ベテラン。冒頭(MSWの歴史、日本協会の取り組み)は、笹岡先生の報告と重複していたためストレスフルだったが、中盤以降はさすが臨床家だけあって、明日から職場で使えるような実践的なアイデアを報告して下さった。制度紹介時にエコマップを導入することや「クライエントの生き方やり方に注目する」という発想は、職場に帰ったら早速検討してみたいアイデアだった。相談者を3つのパターンに分類するという発想も興味深い。事例的に説明するのではなく、「コンプレイナント・タイプ」と言えば他のSWも理解し易いという。 研修参加の倍率は、あくまでも申し込める職場環境にあるMSWの倍率であって、申し込みたくてもそれがかなわなかったMSWを入れると倍率はもっと上がるものと思われる。 【評価】 ◎
(明日の予定) 1限 「個人情報保護」 講師:岡本悦司 氏(国立保健医療科学院経営科学部経営管理室長) 2限 「終末期医療」 講師:林謙治 氏(国立保健医療科学院次長) 晩 長沼建一郎先生に早稲田大学見学ツアーをお願いし、その後夕食会。 ①2007.12.8 加筆 ②2007.12.9 加筆