診療報酬改定に伴う研修会in京都

2008年4月5日(土)、京都にて日本医療社会事業協会(以下、日本協会)が主催する「診療報酬改定に伴う研修会」に参加した。以下、事実認識と価値判断に分けて述べる。 【概要】 会場:バンビオ一番館長岡京市立総合交流センター 参加者:102名(90%以上が日本協会会員) 配布資料: ①冊子:日本医療社会事業協会『診療報酬改定に伴う研修会』2008(100ページ) ※小山秀夫「平成20年度診療報酬改定のポイントと方向性 診療報酬改定の最新事情」掲載 ②事例が掲載された退院支援計画書の写し ③冊子:Japan Medical Association Research Institute『2008年度診療報酬改定の概要』 ・当日のプログラム 11:00~16:00 セッション1 診療報酬評価への過程 日本協会副会長 内藤雅子 氏 セッション2 2008年度診療報酬改定の概要 メディカル・テン代表 宮坂佳紀 氏 セッション3 ソーシャルワーカーの行う退院支援のあり方 同 内藤雅子 氏 セッション4 退院調整加算の業務展開  聖路加国際病院 西田知佳子 氏・初台リハビリテーション病院 取手涼子 氏 【事実認識】 ・印象に残った言葉 内藤氏:今日の研修で出た質問は、今後日本協会のHPにまとめて掲載していく。SWの業務は、退院支援だけではない。もっと色々ある。そのことを確認することが重要。 内藤氏:今回の研修は、全国11会場で開催される。3月28日現在1,382名の参加を予定しており、一方で1,134名の方にお断りせざるを得なかった。 内藤氏:次回の診療報酬改定のお願いをしていくには、09年8月がタイムリミット。あと1年半しかありません。我々は次回に向けて、SWの退院支援が患者・家族にとって「良かった」ことを証明するデータを収集していく必要があります。 内藤氏:ウイルス疾患指導料の施設基準に社会福祉士が明記されたが、実際は同指導料の届出自体が少なかったため、あまり大きな影響は与えられなかった。 内藤氏:今回の診療報酬改定において日本協会は、4つの要望を厚労省に行った。今回、そのうちの1つが実現した。 内藤氏:今回の診療報酬改定において、日本協会が厚生労働省に対して退院調整に名乗り出ていなかったら、きっと看護師の方だけの診療報酬となっていただろう。日本協会として、社会福祉士の名称を診療報酬に掲載することは、医師会や看護協会の了解が必要であり、慎重な取り組みが必要であった。今後も大人の関係を築いていくことが重要である。 内藤氏:今回後期高齢者退院調整加算が100点という点数になった。小山秀夫先生の話によると老人デイケア訪問看護も最初は100点から始まったと聞いている。目指せ1,000点。 西田氏:これまでやってきたことに報酬がついたのであって、新しくやることが出来た訳ではない。(設置基準に独立部門の設置が明記されたことに触れて)部門として独立する契機ですよ。(後期高齢者)退院調整加算を算定するには、医事課のいち医療ソーシャルワーカーではなく、医療相談室とか医療社会福祉部とか、そういった独立部門を設置する必要があります。 西田氏:届出の条件としては、看護師や社会福祉士の各種条件が必要となりますが、実際に計画を作成する人や行なう人は誰でも構わない。 西田氏:退院支援計画書に自分の名前が掲載されることの意味を良く考えて下さい。今までは診療報酬に我々の業務がのっていなかったから、良い意味でも悪い意味でも自由にやれた。これからは、監査という手段で我々の業務が見られます。 西田氏:(計画書はいつ渡すのかという質問に答えて)計画書は1回目の面接ではなく、ある程度関係性が出来てきた時に渡したほうがいいのでは。流石に1回の面接で方向性が決る訳ではないでしょ。 取手氏:(退院加算について)障害者施設等入院基本料、特殊疾患入院医療管理料、特殊疾患病投入院料を算定している患者の場合、退院支援計画作成時に100点。退院時に300点。平成20年3月31日に上記入院基本料等を算定する病院に入院していた脳卒中の後遺症患者及び認知症の患者の場合は、さらに500点を加算する(平成22年3月31日まで)。この場合、合計900点が算定できることになる。 取手氏:退院調整加算の点数を上げていくことは必要。多くの入院患者が高額療養費制度を活用するので、入院していること自体で自己負担は上限一杯になる。だから退院調整加算の点数が上がったとしても自己負担が上がる心配は無いのではないだろうか。しかし、我々の行為が患者にとって金銭的負担を強いるのであればそれは別途対応策を考えなければいけないと思う。 取手氏:後期高齢者用のスクリーニングシートは、退院困難な要因を抽出する。しかし、慢性期用のスクリーニングシートは、もともと退院困難で入院してきているので、その中から退院できそうな患者を抽出するという発想。後期高齢者用とは逆である。 取手氏:(「機械的に全患者に対してた退院調整加算を算定しようとしている医療機関があると聞くが、どのように思うか。」との参加者からの質問に対して)診療報酬には監査がありますから、必ず見つかりますよ。診療報酬を悪用した結果、より複雑になった算定要件を我々は良く知っているのではないですか。我々は、そういうことではなく、倫理を持って実践していくことが大事だと思います。※一部から拍手が起こる。 【価値判断】 ・他職種にとっては当たり前だが、MSWにとっては、初めて課せられた「標準化された業務」のため、しばらくは慣れないかもしれない。電子カルテやデータベースソフトを活用して、スクリーニングや退院支援計画作成業務の効率化に取組む必要がある。 ・日本協会としても初めての取組み。詰めなくてはいけない点もあるが、協会として後期高齢者・慢性期別のスクリーニングシートと退院支援計画書の案を提示したことは素直に評価したい。(各書式案を協会HPに掲載するように参加者から要望があり、「検討する」とのこと。) ・日本協会としては、技術ばかりに走らず、MSWとしての姿勢や倫理が重要と述べた点も評価できる。 ・配布資料に多数の誤った情報が掲載されており、ただでさえ混乱する状況に拍車をかけることになった。冊子にしてしまって差し替える訳にはいかないのであれば、せめて訂正用紙を添えて配布すべきであったと思う。 ○修正箇所 p64,65,79に掲載されているAとBに分けられた図 Aには、「65歳以上74歳までの後期高齢者医療被保険者証の所持者」を追加 Bには、「広義を退院調整加算とし、その下位項目として退院支援計画加算と退院加算がある」と訂正 ・また、通知の解釈について日本協会として詳細に詰められておらずかなり強引な解釈(「在宅での療養を希望する患者」をめぐる解釈)も見受けられた。今回全国各地で行われる研修会で参加者から出された質問を精査して厚労省に確認して頂き、回答を得られるようにしてもらいたい。 ・6月16日・17日に開催される「退院支援専門ソーシャルワーク研修」では、更に実践例を交えながら報告がなされることを期待したい。ちなみに、この研修において「退院支援とソーシャルワーク」というセッションを担当する田中千枝子氏は、現在東海地区で教鞭をとっていらっしゃる。是非、東海地区においても同様の研修を開催してもらいたいものだ。 ・「この報酬を算定することで、現在の入院患者を病院全体の取り組みとして、追い出すことになりはしないか。」と、複雑な思いで参加しているMSWもいた。決して参加者全員が、今回の診療報酬改定に浮き足立っている訳ではない印象を持った。 ・国立保健医療科学院で共に研修を受けた知人が3人もいて、有意義な情報交換が出来た。これも研修に参加できたお陰である。 【参考資料】 ・算定要件(pp.13-15)施設基準(pp.18-19)退院支援計画書(p9)(後期高齢者)退院調整加算の施設基準に係る届出書添付書類(p58)疑義解釈資料(平成20年3月28日付)疑義解釈資料(平成20年5月9日付)・・・問13,14 ※上記資料は全て、厚生労働省HP「平成20年度診療報酬改定に係る通知等について」に掲載されている。 ・2008.4.16 加筆 ・2008.5.18 加筆