老人福祉法による老人ホームへの入所措置

2000年に介護保険制度が開始され、「措置から契約へ」というキャッチフレーズが一般化した感がある。 しかし、介護保険以前に老人の処遇を取り扱う根拠法として老人福祉法があり、現在でも生きている法律だ。 例えば、養護老人ホームは老人福祉法が規定する代表的施設である。そして、今は忘れ去られそうになっているが介護老人福祉施設もまた特別養護老人ホームとして老人福祉が規定する代表的施設である。 ある事例 先日ある市の生活保護CWと地域包括支援センター主任ケアマネと患者さんの退院後の処遇を検討する会議を開いた際の会話。 患者さんは生活保護世帯で単身高齢男性。長年建築土木の寮で住み込み、その後ホームレスをしたあと居宅保護にて生活し始めて1年目。生活歴から生活方法を身につける機会がなく金銭管理も困難となり栄養失調にて入院。本人は、「自分で生活していく自信がない。出来れば他人の手をかりて施設入所がしたい。」と。 当方から、本人の希望を踏まえて要介護状態となるなら特別養護老人ホームへ、状態復帰したら養護老人ホームへの措置を提案。いずれの場合も老人福祉法担当現業員と連携を取られるよう助言。以下、提案に対する二人の反応。 生保CW「老人福祉法担当現業員?ねぇ、"そち"ってどういう漢字で書くの?うちの役所だとどこが担当部署なんだろう。あぁ、あの人かぁ。あの人じゃやってもらえないだろうなぁ。うーん。僕、2年前まで図書館に配属だったから、福祉のこと良く分からないんだよね。」 →おいおい。それじゃあいかんでしょ。一方的に批判しても始まらないから、こちらから制度解説。生活保護担当現業員として、老人福祉法担当現業員と連携することは、結果的に自分ひとりで担当保護世帯の処遇について抱え込まずに済むし、結果的に仕事がやり易いんじゃないの? 主任ケアマネ「老人福祉法?措置っていうのがあるんですか。そういえば以前高齢者虐待のケースで養護老人ホームに急きょ入所した人がいた気がする。そっか、あれが措置なんだぁ。措置する場合ってどういう基準でやるんですか?」 →うーん、確かに措置は措置だけど、それって高齢者虐待防止法ではないかなぁ・・・。サービスを利用するという点からすれば主任ケアマネでもいいけど、何で社会福祉士が来ないの? 会議の結果、特別養護老人ホーム養護老人ホームへの措置については、「措置のやり方が分からない」ということで見送り。介護保険を申請し、本人の在宅生活をサービスを提供して支援していきたいと、両者。なんだそりゃ。 その後結局、本人状態復帰し「入院した時は、気も弱っていたけれど元気になりました。また自宅で生活したいです。ヘルパーとかデイとか利用したい。」という希望を示され、施設入所は希望されず。要介護認定もおりなさそうなくらい元気になったため地域包括の主任ケアマネも関わるのを辞め、結局在宅介護支援センターが介入することに。 考察 介護保険を上手く活用できる市民層や、虐待といった"社会的援護を要する人"と判断されやすい市民層は社会資源に私的・公的にアクセスしやすいが、それらの中間層にとって老人福祉法が機能しないと、栄養失調といった予防可能な状態になり医療機関に受診しない限り、社会資源と繋がることができない。最悪誰にも発見されるのことなく孤独死の状態で後日発見される。福祉は事後処理的側面だけではなく予防的側面もあるのではなかったのか。 介護保険法が市民全体に広まったこと自体は評価できるが、老人福祉法の存在が忘れ去られようとしている状況は大変危機的な状況だと思う事例だった。 ○参考 ・滋賀県高島市HP香川県東讃保健福祉事務所HP