「急変時ケア 事前確認」『読売新聞』2009年7月21日
急変時ケア 事前確認
認知症の利用者らが増える高齢者施設で、
「医療の事前指定書」
三河南部の茶所、名鉄西尾駅から車で約10分、特養「せんねん村」(定員80人)は、近隣の1市3町から無償貸与された約1万4000平方メートルの広大な敷地の一角にある。 運営方針に掲げるのが、「住み慣れた部屋で最期までその人らしく」。2001年の開設以来、看取りケアに力を入れており、入所者に「医療の事前指定書」の提出を求めてきた。 指定書は、中沢明子施設長らが、カナダの医師が開発した様式を参考に作成。施設での看取りを望むのかや、終末期を迎えた場合に、人工呼吸器や、栄養を直接送る胃ろうなどの医療処置をするのかどうかを確認する。今年3月からは、終末期だけでなく、容体が急変した場合の対応も尋ねる様式に改めた。 従来の様式だと、「その時にならないと分からない」との回答が多いのに、急変時にすぐに家族と連絡がとれない事態も起きたためだ。「望んでいない医療処置を施された」といった家族の声もあったという。 新様式では、施設で処置できない緊急事態には病院に搬送することを明記した上で、救命措置として、心停止した場合に、電気ショックを行うか、人工呼吸器をつけるかなどを尋ねるようにした。施設外の協力を得ることが必要なため、指定書の様式には、施設職員のほか、搬送先の病院の医師らの意見を取り入れた。搬送時には、施設の看護師が付き添い、救急車内で指定書の内容を救急隊員に伝えるとともに、病院到着後には、診察室でも医師に説明することにしている。 過去1年間に施設内で約30人が最期を迎え、転院先で亡くなったのはわずか2人。ほぼ全員が施設での看取りを事前に希望していた。急変対応を加えたことで、山田江己子看護師は「搬送先の医療機関などで、医師とも安心してやりとりができるようになる」と話す。 中沢施設長は「家族にとっても、亡くなる際のかかわり方は大切。元気なうちから、延命治療についての考え方を家族などに伝えておくと、認知症が進んでいた場合でも、希望をかなえることができる」と話す。 終末期医療への関心 指針を定めて看取りに取り組む特養が増えている背景には、認知症高齢者の増加や、終末期医療への関心の高まりがある。 厚生労働省が2008年に実施した調査でも、8割が関心を持っており、死期が迫った場合の延命治療について、「望まない」、「どちらかといえば望まない」との回答も7割に達している。12万人の会員を擁する日本尊厳死協会が、延命処置への意思を、書面により表示する運動を進めているほか、財産、家族関係、好みなどを記した「自分の人生歴申告表」に終末期医療への対応を書き込む取り組みも広がりつつある。認知症が進むと、最期に判断能力が失われるケースが多く、事前の意思確認の意味はさらに大きい。 「上手に老いるための自己点検ノート」を監修、老いの準備運動を提唱している、石黒秀喜・長寿社会開発センター常務理事は、「認知症になった場合、介護してくれる人に参考にしてもらえるよう、できるだけ詳しく書き留めてほしい」と呼びかけている。