「透析医療“受難の時代”(3) 「生きる権利」を次の世代に」『CBニュース』2009/08/17

CBニュースにて透析医療に関する特集が組まれている。今回は、ここ10年近くの透析医療に関する診療報酬の遍歴について書かれており勉強になった。また、昨年透析導入した患者の4割強が糖尿病性腎症を理由としているというデータにも驚かされた。
 「患者と医療者は両翼。わたしたち患者も、安穏と医療を受けているだけの時代ではない」-。NPO法人東京腎臓病協議会(東腎協)の小関盛通事務局長はいつも、透析医療を守るために患者ができることを考えているという。診療報酬の削減などで医療現場が困窮すれば、患者にも影響が及ぶと考えるからだ。 ■ 診療報酬に“翻弄”  透析医療の診療報酬点数は、変動が激しい。例えば外来での「人工腎臓」の点数は、1日につき透析時間が「4時間未満」で1630点、「4時間以上5時間未満」で2110点、「5時間以上」で2210点だったものが、2002年度の診療報酬改定で時間区分が撤廃され、一律1960点になった。  06年度の報酬改定では、腎性貧血の治療に用いる「エリスロポエチン製剤」を包括評価することになり、点数は一律2250点になった。  昨年度は、透析時間が生命予後に影響を与える可能性があることなどが考慮され、時間区分による評価が復活。「4時間未満」2117点、「4時間以上5時間未満」2267点、「5時間以上」2397点になった。  こうした透析医療の診療報酬点数の変化が患者に影響を与えてきたと、小関さんは言う。  一般に、透析は4時間以上実施した方が、予後が良いといわれている。しかし、小関さんによると、時間によらず点数が一律になった時期には、透析時間を3時間にする医療機関もあったという。小関さんは「診療報酬点数が下がれば仕方がないのかもしれないが、時間が短いと心臓に負担が掛かったり、予後不良のリスクが高くなったりするのは間違いない」と話す。  透析の現場では、患者の高齢化が進み、要介護者も増えた。長年透析を受けている人や、糖尿病性腎症が進行して透析を受け始めた患者などは、合併症による重症化が問題となっている。リスクを抱える患者が増加する中、透析室では十分なスタッフをそろえられないでいる。さらに高齢患者の送迎など、透析を実施する医療機関の負担は増すばかりだ。  こうした中、医療機関に診療報酬上の手当てが十分になされないと、患者の命にもかかわりかねないとの不安がある。このため診療報酬を守るための働き掛けは、患者側にも重要になる。小関さんは「医療機関を救う根本的な変革を国に訴えたい」と話す。 ■苦難の時代に戻らないために  東腎協では、全国腎臓病協議会(全腎協)と共に38年間にわたり、国に請願書を出し続けてきた。今年3月に出した請願書には、腎臓病および糖尿病性腎症の予防対策と腎不全・透析治療に移行しないための啓発活動に取り組むことや、医師や看護師、ホームヘルパーなどの人材不足を早急に解消するための具体策を講じることなど8項目を盛り込んだ。  中でも小関さんが危惧するのが、透析を始めるきっかけとなった疾患が糖尿病性腎症である患者が増えていることだ。昨年透析導入した患者では4割強を占めるという。「食事管理など自己管理をきちんとすれば、透析を導入するまで悪くはならない。自分でコントロールができるなら、苦しい透析に入る道を選ばないでほしい」。  小関さんがこう主張するのは、この問題が糖尿病性腎症の患者にとどまらないからだ。透析患者が増えれば、それに伴うコスト増が社会保障費を圧迫する。やがては、患者に医療費負担を求める声が上がらないとも限らない。  助成の体制がいったん崩れると、元に戻すのは難しい。いずれは患者個人ではカバーし切れないだけの負担を求められる苦難の時代に回帰する危険性もはらんでいると、小関さんはみている。  「現在の透析医療は、先輩たちが一つずつ『生きる権利』を勝ち取ってくれたもの」と小関さん。これを次の世代に引き継ぐためにも、「患者は無関心でいられない」と考えている。 【関連記事】 透析医療“受難の時代”(1) 高まるリスク、増える業務量… 透析医療“受難の時代”(2) 揺らぎ始めた「世界一の透析現場」 「移植医療は優しさの医療」移植コーディネーター講演 看護師による在宅療養指導への評価を―看保連が要望書