社説「視点 衆院選 医療崩壊 現役世代こそ大変だ」『毎日新聞』2009年8月26日

毎日新聞の09年8月26日の社説「視点 衆院選 医療崩壊 現役世代こそ大変だ」(論説委員野沢和弘)に、医療ソーシャルワーカーがちょっぴり取り上げられている。世論から見た医療ソーシャルワーカーを配置する理由は医師の負担軽減という文脈。患者中心の医療・介護の支援という文脈ではない。理由はいくつもあった方が良い。


社説「視点 衆院選 医療崩壊 現役世代こそ大変だ」『毎日新聞』2009年8月26日 後期高齢者医療制度の存廃はこの選挙の争点となっているが、「医療崩壊」対策については与野党に対立点が見られず、あまり具体策もなくて盛り上がっていない。小児科や産科が地方から消え、救急患者の受け入れ拒否は都心でも起きているというのにである。外科医不足も深刻で「手術を受けるために韓国や台湾へ行かざるを得ない時代がやってくる」と言う医師さえいる。早く手を打たないと大変なことになる。

 経済協力開発機構OECD)加盟国の平均に対し日本は12万人医師が不足し、医師・看護師1人当たり米国の5倍の入院患者、8倍の外来患者を診ていると言われる。民主党は「医師養成数を1・5倍にする」と公約でうたうが、単純に医師を増やしても崩壊は止まらない。この10年で医師は15%(約3万3000人)増えているが、激務で訴訟を起こされるリスクの高い割に収入が見合わない産科などが敬遠されているのだ。

 危機的な診療科や地方に医師を誘導するためには診療報酬改定や手当支給のほか、初期臨床研修の改革、大学病院や医師会との連携が必要だ。医療資源の集約化で地域全体の医療供給体制を再建した例もある。小児科や産科などは比較的女性医師の割合が高いが、出産や育児で離職している医師が復職できる勤務方法や職場環境の改善にはすぐに取り組むべきだ。医師の負担を軽減するためには医療クラーク(医師の事務を補助する人)、看護師、医療ソーシャルワーカーなどの増員が求められる。訴訟リスクを回避するために産科で導入された無過失補償制度、ADR(裁判外紛争解決)の普及も検討課題だ。地域医療と高機能病院の役割分担を進め、限られた医療資源を効率的に提供するには何が必要か。あらゆる政策を競ってほしい。

 小児科や産科の崩壊が直撃しているのは、出産や育児の渦中の現役世代である。後期高齢者医療制度への移行によって国保に入っていた人の75%が保険料が下がったとされる一方、現役サラリーマンが加入する健康保険から後期高齢者制度への支援金が09年度、前年度比13%増の1兆2723億円、同時に始まった前期高齢者制度へも6%増の1兆1065億円となった。健保組合の9割が赤字なのだ。

 現役サラリーマンの犠牲の上に、国保や市町村の財政難が救われていると言っても過言ではないだろう。いずれ医療保険制度を抜本的に見直す議論を迫られるに違いないが、その前に医療崩壊津波にのみ込まれたのでは目も当てられない。