「児童虐待、芽見逃すな」『asahi.com』2010年06月11日

目に留まったのは、以下の3点。 ・児童虐待防止法が施行されて10年。 ・医師、看護師、医療ソーシャルワーカーなど17人で構成され、虐待児の発見や虐待ケースへの対応などに取り組んでいる。 ・虐待防止委員会の設置は91年の北里大学病院相模原市南区)が全国の先駆けといわれている。 以下、asahi.comより転載。
児童虐待、芽見逃すな」『asahi.com』2010年06月11日 児童虐待防止法が施行されて10年。全国の児童相談所が把握する児童虐待の相談対応件数は年々増加し、親が逮捕される事件も後を絶たない。県内の医療機関では、虐待防止のための取り組みが広がる。県保険医協会が歯科を含めた開業医にチェックシートを配布しているほか、病院独自で新たな取り組みを始めたところもある。(斎藤博美、二階堂友紀)  県保険医協会は今春、県内約5800の医科と歯科の開業医を対象に、子どもの患者を診察した際に虐待かどうかを判断するチェックシートを配布した。  シートには、「無表情」「多動」「異様に甘える」といった子どもの状況だけでなく、「子どもを平気でたたく」など親の様子をチェックする項目がある。緊急度に応じて3段階に分け、それぞれの対応を明記してある。保護者が警戒しないよう説得するための例文も記されている。  地元でのトラブルを避けたいことなどから虐待の通報をためらいがちな開業医に、チェックシートを使って組織的対応ができる病院との連携を深めてもらい、早期発見につなげるのが目的だ。  神奈川歯科大の山田良広教授(法医学)は、「歯科にも配布したことが画期的」と評価する。山田教授によれば、歯科医師は虐待を発見しやすい立場にあるという。虐待する親は、子どもが裸にされる医院は避けたがるが、歯科医院には比較的警戒せずに来院する傾向にあることや、女性スタッフが多く、子どもが本音をもらしやすい環境にあると指摘する。  今年1月、東京都江戸川区で小学1年生が両親の暴行を受けて死亡した事件で、最初に異変に気づいたのは歯科医だった。左ほおと両ももにあざを見つけ、児童は「パパにぶたれた」と話したという。山田教授は「この事件では歯科医の通報がいかされなかったが、チェックシートをきっかけに歯科医院全体に虐待を見つけようという姿勢ができれば、早期発見が増えるのでは」と期待を寄せる。  病院での取り組みも進む。横浜市南区横浜市立大付属市民総合医療センター(市大センター病院)では今月、約1300人の全職員に、パソコンで虐待について学んでもらうための「eラーニング」を開始した。  内容は虐待の基礎知識から、虐待が疑われる時の対応方法までさまざま。テストもついていて、全職員が8割の合格点を目指す。  同病院では虐待対応のための委員会を2000年から立ち上げている。医師、看護師、医療ソーシャルワーカーなど17人で構成され、虐待児の発見や虐待ケースへの対応などに取り組んでいる。このeラーニングを通じて、病院のスタッフ全体で虐待を見つけやすく相談しやすい環境を作りたい考えだ。  相模原市緑区相模原協同病院は04年、虐待と思われる乳児が運び込まれたのをきっかけに院内に虐待防止委員会を設置。定例の委員会を月1回開くほか、虐待が疑われるケースが出てきたら随時検討を行う。また院内での勉強会や市民講座なども開催。6年の経験で、行政との連携もスムーズにいくようになったと同病院のスタッフは話す。  こうした虐待防止委員会の設置は91年の北里大学病院相模原市南区)が全国の先駆けといわれている。県保険医協会の08年の調査では、児童虐待対応チームを設置している病院は県内で少なくとも27施設に広がっている。    防止に取り組む医療機関が増えるなか、課題も多い。ある病院の虐待委員会メンバーは「虐待が疑われる場合に子どもを保護する必要があることを保護者に伝え、説得することは、大変な責任と配慮と心労が伴う。診療報酬など何らかの形で認められないと、モチベーションが保てない」と語る。  NPO法人子ども虐待ネグレクト防止ネットワーク」理事長として虐待防止に取り組む伊勢原市の山田不二子医師は「虐待やネグレクトされている子どもを入院させると、その子どもにかかる手間は非常に大きい」と指摘する。保護者と子どもだけにならないよう見張ったり、攻撃的な保護者への対応に疲弊したり。厚意だけで成り立つものではないという。  山田医師は虐待防止の取り組みが広がる動きを評価する一方、医療現場で「虐待が疑われる子を見たら一手間かけて」といっても「忙しい日常診療でそんな暇はない」という反応が少なくない現状を語る。日本の現場では、外傷をみたらまず、悪意のない偶然の事故だという前提で対応を始めるケースが多いと嘆く。  「特に子どもの外傷をみる医師は、虐待が最も危険だということを知ってほしい。繰り返され、死に至ることもある。外傷をみた最初の瞬間から、それが虐待によるものではないかどうか十分注意しながら診療することを徹底すべきです」