「アルツハイマー病 待望の新薬 相次ぎ申請」『東京新聞』2010年7月13日

認知症に対する薬事情について、わかりやすく説明されています。 以下、東京新聞のHPより転載。
アルツハイマー病 待望の新薬 相次ぎ申請」『東京新聞』2010年7月13日 認知症最大の原因、アルツハイマー病の治療薬として国内で承認されている薬は、「アリセプト」の一種類だけだが、近い将来、国内でも海外のように薬の選択肢が増えるかもしれない。海外で普及している三種類の薬について、国内での製造販売の承認申請が今年に入り、相次いでいる。 (佐橋大)  六月五日に京都市で開かれた「認知症の人と家族の会」。総会後のレセプション会場で、認知症の男性が「新しい薬を早く出してください」というサインボードを掲げ、出席者にアピールした。  居合わせた洛和会京都治験・臨床研究支援センター(同市)所長の中村重信医師は「こうした光景は、認知症の人や家族が参加する会では珍しくない。私の外来診察室でも『いつ新しい薬が出るのですか』と真剣に尋ねられる患者さんは多い」と、新薬を渇望する患者の声を代弁する。  アリセプトは、脳内の神経伝達物質アセチルコリンの分解を抑えて、神経細胞の働きを強め、認知症の進行を遅らせる。しかし、効果が出ない患者や、吐き気などの副作用がひどくて服用できない患者もいる。こうした患者と家族には「海外で使われている薬を日本でも使えるように」との願いは切実だ。  二月に承認申請された三剤は、いずれも症状の進行を遅らせる薬で、十年ほど前に海外で承認され、七十カ国前後で販売されている。審査を経て、国内販売が認められれば、患者の薬への悩みが減ると期待されている。  中村医師によると、患者の中には国内承認を待ち切れず、インターネットを通じて、薬を個人輸入する人も出ている。ただし、ネット経由で輸入した商品の中には、模造品もあり、医師の処方によらない服用は、思わぬ副作用を招く危険性があるという。「現場の医師として一日も早い承認を願う」と中村医師は話す。  ◆承認申請された新薬の特徴  ◇ガランタミン (ヤンセンファーマ社) アリセプトと同じく、アセチルコリンの分解を抑え、症状の進行を遅らせる。違いは、神経伝達物質を受け取る神経細胞の受容体の働きも活発にして、伝達物質の働きを良くする点。受容体の中には、吐き気や、脈が緩やかになる徐脈などの副作用を引き起こすものがあるが、こうした受容体へは、あまり働かない。このため、アリセプトより副作用が少ないと考えられている。軽度から中程度の患者用。 ◇リバスチグミン (小野薬品工業ノバルティスファーマ社) アルツハイマー病の薬では唯一の張り薬。認知症の人では、病気の症状のため、口から薬を飲むのを嫌がる人がいる。しかし、張り薬のリバスチグミンなら、アリセプトを服用拒否で使えない人にも使える。アリセプトとは別の方法で、アセチルコリンの分解を抑えるため、アリセプトが効きにくい人にも効果があると期待されている。 ◇メマンチン (アスビオファーマ社) 脳を興奮させる神経伝達物質を受け取る受容体の働きを阻害し、神経細胞の損傷を防ぐタイプの薬。アリセプトだけでは薬の効きが悪くなった中重度の患者への効果が期待されている。 ◆アルツハイマー病  国内の推定患者は100万人以上。体験したことをすっぽり忘れる記憶障害や、段取りが立てられない実行機能障害などの症状で、生活にさまざまな支障が出る。被害妄想や抑うつ、徘徊(はいかい)、暴言などの症状が出ることもある。