日本社会福祉学会第58回秋季大会開催校企画

昨日、名古屋市公会堂にて日本社会福祉学会第58回秋季大会開催校企画(テーマ:近未来の社会福祉の枠組みと仕組み-環境・医療・福祉政策とソーシャルワークの好循環を求めて)に参加してきました。 20101009203333.jpg シンポジストは、以下の3名。 炭谷茂氏…恩賜財団済生会理事長、学習院大学特別客員教授 二木立氏…日本福祉大学教授、副学長 白澤政和氏…大阪市立大学大学院教授 以下、会場で配布された『開催校企画資料集』より印象に残った白澤先生の文章を紹介する。 「小売り的方法」であるソーシャルワークが施策との良好な循環を作り上げる力をつけるためには、ソーシャルワークは単に個人、組織、地域社会に対する実践能力を高め、自立に向けて支援していけるよう学生を教育したり、実践していける人材を養成していくことも重要であるが、それだけでは十分でない。日本のソーシャルワークが反省すべきことは、ソーシャルワーカーの実践能力さえ高めれば、利用者に寄与するだけでなく、専門職としての社会的地位も高まり、制度との良好な循環を作りあげることができるとの錯覚があったのではないだろうか。あるいは、ソーシャルワークには軸になる何かが欠けているが、そのことについては、どのように手を付けていったらよいか分からず、軸になるものは別世界のものとして無視してきたのではないだろうか。(p20) ソーシャルワークが施策との良好な循環を生み出していくためには、ソーシャルワークが個々のソーシャルワーカーの力量に頼るだけでは、極めて弱い循環に過ぎない。ソーシャルワーカーが属する機関・組織があり、さらにその機関・組織内でソーシャルワーク機能が生かされている仕組みが出来上がっていてこそ、初めて様々な施策と良好な循環ができているといえる。(p20) ソーシャルワークには、多くの領域で、高齢者ケアマネジメントのような「システム」を作り上げていく必要性があるにも関わらず、欠落なり不十分な状況にある。そのため、ソーシャルワーク「システム」の現状や問題点を明らかにし、高齢者ケアマネジメントのような「システム」を作り上げるよう、社会に働きかけていく視点が弱かったことを反省している。(p21) こうした、ソーシャルワークの「システム」は、行政が構築してくれるといった他力本願では、成就しない。それは、ソーシャルワークの有効性を社会に提示することで、ソーシャルワーク自らが、理論化し、運動も含めて具体化していかなければならないといえる。その際に、ソーシャルワークの「プラクティス」が社会から納得のいくものとして承認をえていくことが、「システム」を形成することに極めて有効である。(p21) ソーシャルワークが他の専門職と比較して、最も異なる独自性は、価値や、面接、説明、交渉といった能力というよりは、生活を支援する計画作成・実施にあるということである。ここで言う計画は、当然ソーシャルワーク独自の計画であり、それは人々の「生活」を改善したり、維持できることを目的としたものである。そのため、生活支援「計画」という意味をもっており、ここに他の専門職の計画と根本的に異なるものである。(p22) 【感想】 白澤先生の文章とシンポジウムでの発言の端々から、如何にしてソーシャルワークと施策の好循環を作り上げるか、そのカギとしてソーシャルワーク「システム」を如何に築き上げていくかという問題意識が強く感じられた。具体的な手段としてソーシャルワークの実践を計画的(planed change)に実施し、評価(evaluation)することが必要であると述べられていたことが、ここ2-3年白澤先生の発表をうかがっていて何度も出てくる印象的な言葉であった。議論の対象を広げてぼやかすことなく、認識している問題にきちんと向き合う姿勢に深く感動した。 日本社会事業大学の大島先生からもエンパワーメントプログラムについて紹介され、援助者がクライエントに対して、目標(ゴール)を設定しプログラムを与えるのでなく、クライエントと援助者が共通の目標(ゴール)を設定し、プログラムを作り上げて問題解決を図る方法について紹介があった。 計画を文章化することにより援助経過・評価・結果を可視化すること、これが社会的承認を得るために、ソーシャルワーカーが社会的説明責任を果たす有効な手段であるという結論に、非常に納得させられた。 白澤先生の言葉に、我々臨床家は真摯に答える必要があるのではないだろうか。今回も強く心を動かされるお話が聞けて大変満足だった。 ○追伸 岡村重夫先生の生誕100年を記念してネルヴァ書房より『岡村理論の継承と展開』(全5巻)が出る予定。但しネット上の情報では昨年から出ている話であり、出版まで時間がかかっている様子。