『済生会生活困窮者問題調査会平成25年度調査研究助成事業報告書 ホームレスの地域生活移行に向けた公私連携の現状に関する調査研究』

済生会生活困窮者問題調査会平成25年度調査研究助成事業報告書 ホームレスの地域生活移行に向けた公私連携の現状に関する調査研究』(研究代表:日本福祉大学 山田壮志郎准教授)2014年3月がまとまりましたので、研究代表者の山田氏の了解を得て報告書をアップします

私も研究協力者として、東京・大阪・横浜・名古屋でホームレス支援に熱心に取り組んでおられる病院のMSWのところへヒアリングに同行させて頂き、大変学ぶことの多い半年間でした。久しぶりに貧困問題に向き合う時間が出来、自身のMSWとしての原点の1つを再確認することができました。

私の具体的な感想については、同報告書「4. 調査研究に参加して」pp.44-46に書かせて頂きました。興味のある方は是非ご覧下さい。

なお、本研究成果については、今年9月に開催される第24回日本医療社会福祉学会大会(於:神戸学院大学)にて発表予定です。

以下、研究結果の概要(山田氏執筆)を転載します。


1-4 研究結果

1-4-1 アンケート調査から明らかになったこと
1-4-1-1 無料低額宿泊所の利用状況
回答医療機関の約半数は、ホームレス患者の退院後の居所として無料低額宿泊所を利用した経験を持っていた。なお、この点については地域差がみられた。東京都内に所在する医療機関は利用経験のある比率が高く、無料低額宿泊所の地域的偏在の影響が推測された。
ただし、退院後の居所として無料低額宿泊所を利用するのは、医療機関側の主体的な選択というよりも福祉事務所からの提案を受け入れているという要素が強かった。医療機関側の宿泊所に対する評価は高くなく、そもそも宿泊所の処遇内容を把握していない医療機関が多くを占めたことは、患者のニーズに即して医療機関が主体的な選択をしたわけではないことを示している。
 
1-4-1-2 医療機関と福祉事務所ケースワーカーとの関係
ホームレス患者の医療費は多くの場合生活保護で賄われているため、ホームレス患者の支援では福祉事務所ケースワーカーとの調整・連携が必要となる。福祉事務所との関係は、退院後の居所の設定を MSW 側の主体的な選択によって行うのか、福祉事務所側の意向を中心に行うのかを左右する。この点に影響を与えそうな要素として、本研究では、①ホームレスに対する生活保護の運用の地域的な違いがあること、②MSW 所属部署の責任者がMSW 以外の職種であると福祉事務所側の判断を受け入れやすいことの 2 点を指摘した。
 
1-4-1-3 ホームレスの医療ニーズの把握や退院後の地域生活支援に対する意識 前述の通り、本研究ではホームレス・生活困窮者支援における医療機関の役割として、①ホームレス状態にある人の医療ニーズを把握すること、②ホームレス・生活困窮者の退院後の地域生活移行・定着を支援することの 2 つを仮定した。これらの活動は、多くの医療機関は取り組めていなかったが、取り組む責任があることは多くの医療機関が認識していた。特に、MSW 所属部署の責任者の職種が MSW である場合には、その認識が高かった。
また、MSW 所属部署の責任者の職種が、MSW の実践や意識に一定の影響を与えることが示唆された。
 
1-4-2 ヒアリング調査から明らかになったこと
1-4-2-1 生活困窮者のニーズキャッチのための先駆的実践をしている医療機関があるヒアリング調査を通じて、ホームレス等の医療ニーズを把握するための先駆的な取り組みをしている医療機関がみられた。例えば中野共立病院では、JR 中野駅前での街頭相談を月 1 回開催し、ホームレス状態にあった人の生活保護申請につなげるなどの成果がみられた。また、大阪府済生会の病院は、釜ヶ崎地区での特別清掃事業従事者への健康診断に取り組み、社会的困窮者の医療ニーズの把握に大きく貢献していた。神奈川県の済生会病院でも、県が実施するホームレス巡回事業に看護師が同行する取組みをしているほか、無料低額診療事業を活用し、医療が必要な生活困窮者の初診料を無料にする事業を試みている。
 
1-4-2-2 退院後の地域生活支援につながる実践をしている医療機関もある
ホームレス患者の退院後の地域生活支援についても、それにつながり得る実践に取り組んでいる医療機関もみられた。例えば浅草病院は、ホームレス患者の退院後の訪問診療に医療ソーシャルワーカーが同行し退院後の状況を直に見ることで、地域の社会資源や生活状況の理解につなげていた。また中野共立病院では、退院後に「気になる患者」への訪問活動を実施していた。
 
1-4-2-3 回復期病院では退院後の地域生活支援につながる実践に取り組みやすい
ヒアリング調査の対象医療機関の中には、急性期病床を中心とした医療機関と回復期病床を中心とした医療機関があったが、急性期病院の場合は医療機関や MSW が患者に関わる時間が限られているため、退院後の地域生活支援に取り組むことを困難にさせていることが分かった。一方、回復期病院の場合は患者と関わる時間も多く、また退院前指導における家屋調査に MSW が同行することで退院後の生活状況を具体的に把握していた。
 
1-4-2-4 保証人問題など身寄りのない患者が抱える課題への支援に苦慮している
ホームレス患者は身寄りがないことが多く、居宅設定時の保証人がいないなどの問題にMSW が苦慮していることも分かった。一方で、ホームレスや生活保護受給者の物件探しに理解のある不動産会社を社会資源として活用している例もあった。名南ふれあい病院では、身寄りのない患者の特徴を踏まえたチェックリストを作成することで対応に苦慮する身寄りのない患者への業務の標準化を図っていた。
 
1-4-2-5 福祉事務所や NPO などとの連携のあり方が医療機関による支援に影響するホームレス患者の支援において、福祉事務所の生活保護ケースワーカーや、ホームレス問題にかかわる NPO 団体との連携は重要な意味を持つ。ヒアリング調査では、生活保護を受給しているホームレス患者の支援、特に退院後の居住場所の設定に関して、自治体によって、あるいは区によって、さらには担当ケースワーカーによって方針が異なっており、それが MSW と福祉事務所との連携に影響を与えていた。NPO との連携に関しては、浅草
病院において、山谷地域の関係機関とのネットワークを構築している例がみられた。山谷という一定の特殊性をもった地域での取り組みではあるが、今後の都市における身寄りのない高齢者や生活困窮者の地域ケアのモデルになり得るのではないか。
 
1-4-2-6 先駆的な実践は医療機関の文化やスタッフの熱意に依るところも大きい
ヒアリング調査で明らかになったのは、生活困窮者のニーズキャッチやホームレス患者の退院後の地域生活支援に関して取り組まれている先駆的な実践を作っていくのは、医療機関がもつ文化やスタッフの熱意に依るところも大きいということであった。例えば、済生会グループによる「なでしこプラン」に象徴される病院としてのミッションや、浅草病院での地域ケアに熱意をもった医師の存在、中野共立病院や名南ふれあい病院など民医連グループによる「気になる患者」への訪問活動など、モデル化・標準化しにくい要素についても見る必要があると考えられる。