退院支援から入退院支援へ

先月、職場や理事会で話題に上がった資料。

平成29年度第3回診療報酬調査専門組織(入院医療等の調査・評価分科会) 平成29年6月21日
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000167766.html

■参考
「『7対1』は1万2千床減少 中医協・分科会が入院基本料を議論」『週刊社会保障』№2930,2017.7.3,p10


議事録より
〇事務局
 57こま目以降が入退院支援の前回改定の概要で、58こま目をごらんください。これまで退院支援という言い方が多かったのですが、よくよく考えますと、入院時から退院時までの切れ目のない支援というところが入退院支援ということなので、今回、この資料では呼び方を入退院支援という言い方にさせていただいています。
 これはどこかというと、左下にありますように、療養している場所と、病気になったら医療という左上の場所との出入りのところのつなぎ目をしっかり支援するというのが、この入退院支援の目的、イメージでございまして、当然、この吹き出しにありますように、退院後も住み慣れた地域で生活するための支援として、外来や入院時からの退院後の地域生活を見据えた支援や、外来部門と入院部門との連携、地域と入院医療機関が連携するための支援ということであります。

○尾形委員
 私も58枚目の入退院支援としているのはいいと思います。海外でも、ディスチャージプランニングというと、入院初期からの対応が非常に大事だということですので、いいと思います。
 そこで質問なのですけれども、現在の診療報酬制度でこういう入院早期からの対応というものを評価しているような項目はあるのでしょうか。上の57枚目を見ると、多職種による早期のカンファレンスと書いてありますけれども、もしわかれば教えてください。

〇筒井委員
先ほどの尾形委員の御質問ですけれども、このような内容については、診療報酬ではなくて、介護報酬の中に入院時情報連携加算というものがありまして、これを介護報酬として算定することができます。こういったことは石川先生のおられる千葉などはよくやられていますが、県によって、全然、算定の仕方が異なっています。

例えば、ケアマネの立場からいえば、自分が担当している利用者が入院するとなった。そのときに入院する病院に、退院予定の患者の情報をファクスで送るとか、実際に病院に行って、MSWや看護師に情報を伝えるといったことについての加算が介護報酬上、あります。

こういった取り組みが県や市町村の関係者の意識によって、まったく異なった使われ方になっています。病院側が、患者の退院支援をするためには、病院から、利用者の情報を送ってきたケアマネに対して、この人が入院中にどういう状態だったかということを返す必要があるのですけれども、残念ながら、病院からの情報がケアマネに送られることはほとんどありません。

 それはどうしてかというと、入院してしまうと、ケアマネが担当していた利用者は介護保険から外れてしまうので、ケアマネから見るとお客さんではなくなってしまうわけです。なので、病院の情報は、多くは、利用者が入院した病院とつながっている新しいケアマネに伝達されることはあっても入院前に担当していたケアマネにはつながらないのです。つまり、前のケアマネとのつながりが切れていく仕組みになっています。これは、退院後の支援を担当するケアマネにとっても課題です。入院前の状況がわからないので、最初から、この患者さんの生活の組み立てを考えなければならないからです。

このような状況になっていることを是正するためにも医療と介護の連携に関する意見交換というので中医協総会に3月15日に出された資料には、今回、同時改定なので、一層連携・調整を進める方針を考えろというように示されております。したがって、この場で、ちゃんと議論して、整合性がとれて調整できるような合理的な報酬を考えてもらうということなのではないかと思います。これが1点目です。

 2点目は、いずれにしても、患者さんというのは、在宅に帰るということが前提となります。そうすると、帰った家で生活を再建するための支援が必要であるということとなります。ただ、これは医療が全面的に担うべき内容とはいえません。61枚目のスライドに示されたような、「家族の希望に合わないため」に退院が難しいという割合が非常に高いことをみても、この問題を医療が直接解決できるとは思えません。 

ですから、ここまで医療機関がすべてやるという整理ではなく、こっちはまさに医療と介護を統合するという主旨で構築されている地域包括ケアシステムで何か手を打っていかなければいけないところだと思います。

 その場合に、留意すべき点がもう一つあります。2030年の男性の未婚率は首都圏ではなんと39%になります。女性も25%以上になります。ということは、もう家族はいないのです。ですから先の家族との調整が難しいという回答はすくなくなるわけですが、在宅で生活を再建する努力を患者自身がある程度やりぬく力をつけなければならなくなるということを前提としなければならないと思います。

患者が在宅で生活を再建する努力をしていただくためには、病院の中で、いわゆるセルフマネジメントについての支援を何らかやってもらうことが必要になるので、むしろ入院中に、現行では介護報酬で実施しているような内容を使った、例えばケアマネ、地域のそういった仕組みを使ってセルフマネジメントができる仕掛けを、病院としては利用させてもらうということを考えていくことが必要になると思うのです。

 そうしないと、病院で家族の希望もかなえなければいけない、何もかもやっていくというのは、今の人員体制のMSWが2人3人いるぐらいでは、到底、不可能だと思います。そのようなことをぜひ中医協総会でも提案していただいて、介護報酬との連携を図っていただくことを強く希望します。

○池端委員
 今、筒井委員がおっしゃった2点、私も全く同感で、1つ御紹介させていただきたいのですけれども、実は福井県全体で入退院支援ルールを2年前からつくりまして、全県下で急性期病院に入院した方、原則3日以内、最長1週間以内に、介護保険を持っている方は必ず全員ケアマネジャーから情報をとること。ケアマネに対しても、自分の持っている利用者が入院した場合、必ず全員、病院に情報提供することというルールを、地域医療構想絡みで医療圏ごとに議論していって積み上げてつくりまして、昨年からスタートしました。それで、それまでが6割だったのが、今、8割5分まで1週間以内に連携できた。

 これは介護保険の分科会等では取り上げていただいているかと思います。これをさらに広げていきたいと思っている。そこには、今、言ったような加算とかをセットで組み込んで、取れる人は取っているのですけれども、それをもっと取りやすくして、これが広がることがまず第1点。

 そうすることによって、まず最初に入院時から退院のことを考える風土ができて、次に大事なのは、退院前カンファで直前にケアマネが呼ばれたのでは話が全然進まないので、入院早期に開催される退院支援カンファレンスにもケアマネを呼んでほしいということを、今回、医師会として働きかけています。こうして、入院直後、入院中、退院前の3段階ぐらいコンタクトをとるようにしていかないと、なかなか対応が進まないのが1点です。もし資料が必要であれば、情報提供したいと思います。

 もう一点は、私、筒井先生がおっしゃったように、家族が嫌だと言っている人に帰りなさいと押し問答するのを、急性期病院全部に担わせるのは難しいと思います。こういうことは、本来、療養病床等、慢性期あるいは地域包括ケア病棟がやることであって、そこに早く移していただいてやるのが流れではないかと思います。

 急性期病院は、在宅に帰った人のほとんどが自宅へ歩いて退院できて、外来で通院できる方は帰す。それ以外の方々で、本来帰れる機能は持っているけれども、帰れない人は次のところに移っていただく。ここまでがゴールで、急性期病院はいいと思う。その後を受けるのは、地域包括ケア病棟や療養病棟だと思います。

 ただ、ここで1点問題があるのは、地域包括ケア病棟や療養病床でも縛りがあって、在宅復帰率とかがあります。退院困難なこてこての患者さんばかりどんどん来ると、逆に在宅復帰率がクリアできなくなるということがあるので、これもどうするかということはありますけれども、機能分化するためにはそういうことをクリアしていかなければいけない。場合によっては、ある条件の場合は在宅復帰から外す期間を設けるとか、そういうことも大事ではないかと思っています。

配布資料より
(課題)
○ 入退院支援については、患者の状態や療養環境に応じて、入院医療と外来・在宅医療との円滑な移行を支援する機能が期待されており、医療機能の分化・連携強化を推進する観点から、重要な役割を担うと考えられる。
○ 入退院支援にあたっての目標・課題等としては、疾病の治癒や病状の安定に加えて、患者本人の日常生活活動度(身体機能)の回復が重要な要素となっている。
○ 外来・在宅で管理可能な患者が退院できない理由をみると、受け入れ先の確保のほか、在宅における介護力及び患者本人の日常生活活動度や、家族の希望が、その大きな要素となっている。
○ 各医療機関において入退院支援の取組が進められているが、退院することが優先され、患者や家族の希望に寄り添った支援となっていないのではないかとの指摘がある。
○ 入退院支援を困難にしている理由・課題等をみると、相談員の人員体制の不足、支援のための時間確保が困難、患者・家族等との面会日の日程調整が困難(特に日勤帯だけでは困難)との指摘がある。
○ 効率的・効果的な入退院支援を行うためには、入院中だけでなく、入院前・入院時と入院後の外来・在宅時での働きかけや支援も重要であるとの指摘がある。

○ 入退院支援について、患者の状態や療養環境に応じて、入院医療と外来・在宅医療との円滑な移行を支援する機能が期待されており、医療機能の分化・連携強化を推進する観点から、その評価のあり方についてどのように考えるか。例えば、
・ 患者・家族の希望に寄り添いつつ、適切な療養場所への適切な時期での移行
・ 入院前・入院時における患者・家族への関わり方
・ 入退院支援に係る医療機関と受入先機関や訪問事業者等との情報共有を効率的に行う方策

について、どのように考えるか。


平成30年度診療報酬改定に向けた主な検討項目の「(2)患者の価値中心の安心・安全で質の高い医療の実現」に、「患者や家族等への情報提供や相談支援」が盛り込まれている。この分科会の議論が中医協総会での議論にどのように挙げられるのか注目する必要がある。

入院前からの支援の必要性。みんなの意識にはあったし、既に取り組んでいる場合もあるけれど、ようやく診療報酬上の評価の俎上に乗るだけの機が熟したということか。

ただし、議事録の文章の通り必ずしもMSWにとって理想とする方向に議論が進んでいる訳ではない。力のある関係者に実情を知ってもらう。そのためのロビー活動。