研修報告

名古屋市立大学大学院人間文化研究科「グローバル社会と地域文化」主催の「協働するナラティヴ」に参加するため、SOHOプラザ名古屋へ行ってきました。 本研修は、昨年の日本家族研究・家族療法学会(山口)以来見るようになった、遠見書房発行人ブログで知りました。 http://tomishobo.blogspot.jp/2013/11/in.html 参加者は約20名。産業カウンセラーコンサルタント臨床心理士、大学・高校教員、看護師、院生といった顔触れ。ソーシャルワーカーは私だけでした。 本研修では、講師の野村直樹先生(名古屋市立大学)の最新訳著H・アンダーソン他『協働するナラティブ』遠見書房,2013の第2章を事前に読み込んできて、それをベースに議論をする進め方でした。 第2章は、グーリシャン・アンダーソンの論文「言語システムとしてのヒューマンシステム―臨床理論発展に向けてのいくつかの理念―」『ファミリー・プロセス』1988の全訳です。 【印象に残ったこと】 ・傾聴とナラティブの違いとは何か。後者はベイトソンの言う、文脈(コンテクスト)と相互行為(インターアクション)に基づくものだという姿勢が重要である。 ・ナラティブとは聞いたものが作るのではなく、話し合ったもの同士の共著である。 ・ナラティブは言語だけでなく、非言語も含まれる。こと日本においては、非言語的に委ねられる会話もあるため、日本的文脈でナラティブを訳し直さなくてはいけない。 ・ナラティブですべてをカバーしようと思っていけない。 ・「無限大の資源」とは比喩であり真に受けてはいけない。 ・アンデルセン/ホワイト/エプストンの3人がシンポジウムで議論した内容についての訳書が、来年夏ごろに金剛出版から発売予定。 【感想】 ・ナラティブはどこかとっつきにくい印象がありました。ナラティブに限らず、新しい概念が登場すると、それまでの概念を否定し、その優位性を長々と主張する人達にあまり言い印象が無かったからです。野村先生はとても紳士で、ナラティブについてその適応範囲を意識したうえで、可能性について言及され、バランスの良い方だと思いました。著作だけでなく、直接著者のお話を伺うことで「目からウロコ」になることもあると改めて感じました。 ・業務の中で具体的にどう活用するかといった点では、本書で指摘されている「言語システムが社会システムを構成している」という考え方は、「社会システムが言語システムを規定している」と過度に考えている人と接する場合に、有効だと思いました。 ・無知の姿勢(not knowing)は、言うは易く行うが難しだと思います。しかし、常に自身の援助姿勢の戒めとして重要だと常日頃思います。 ・オルタナティブストーリーを紡いでいくという発想は、閉塞的状況にあるクライエントの問題認識や援助関係において一つの突破口になりえるため興味深かったです。但し、予定内調和をどこかに設定し、面接の安全運転を心がけている私自身にとって、本取り組みにより面接の展開が読めなくなり面接がuncontrolになりはしないかと率直に思いました。私の感想に対して、野村先生から「もっとクライエントを信じてみては。予定内調和ばかりを繰り返していては援助者自身擦り減っていきませんか。」と示唆に富むコメントを頂きました。 【関連】 荒井浩道「技法としてのナラティヴ―ソーシャルワークへの応用に向けて―」『駒澤社会学研究』39巻,2007,pp.1-26 http://wwwelib.komazawa-u.ac.jp/cgi-bin/retrieve/sr_bookview.cgi/U_CHARSET.EUC-JP/XC00720195/Body/rsk039-01.html ※著者は、昨年の日本家族研究・家族療法学会で社会福祉士養成課程で家族療法をどの様に教えるかという趣旨の自主シンポを開催されていた研究者のお一人。 2013122306480000.jpg  SOHOプラザ名古屋は名駅近くのジュンク堂の裏手の雑居ビルに囲まれて、ひっそりとたたずんでいます。