「(報われぬ国 負担増の先に)国保滞納、差し押さえ急増 12年度24万件、5年で倍」『朝日新聞』2014年3月7日

患者ビジネスの記事以降、朝日新聞では医療・介護の暗部に光を当てる良質な記事が続いています。資格証明書の交付だけではなく、預貯金・給料の差し押さえは凄まじいですね。大分市の事例では最低生活費を割ってしまっている様に思います。たとえ悪質な事例であったとしても、生存権まで脅かすことは行政行為として恐ろしいです。


「(報われぬ国 負担増の先に)国保滞納、差し押さえ急増 12年度24万件、5年で倍」『朝日新聞』2014年3月7日

 国民健康保険の保険料を滞納している人に対し、市区町村が預貯金や給料などを差し押さえて強制的に滞納分を支払わせている。2012年度には全国で5年前の約2倍の約24万件に急増した。国保には高齢者や非正規労働者が多く、急に生活苦に追い込まれる人が出るおそれがある。
 大分市に住む建設作業員(58)は2月の給料が約8万円しかなかった。約15万円の手取りから国保の保険料が引かれたからだ。家賃などを払えば、手元には約2万円しか残らない。
 昨年10月に保険料の滞納額が約30万円になったのを機に市から給料を差し押さえられ、11月から月約7万円が強制的に引き去られるようになった。おかずを買えず、ご飯とノリのつくだ煮だけの日が続く。
 非正規で働くため、国保に入る。だが、家賃や生活費でかつかつになるため、月2万数千円の保険料は1万5千円しか払えず、滞納額が膨らんだ。
 糖尿病と高血圧だが、給料が差し押さえられてからは病院で払う自己負担分のお金がなく、薬も飲めない。「保険料もなんとか払ってきたのに、いきなりこの仕打ちはない」と言う。  厚生労働省の調べでは、国保の保険料滞納者に対し、全国の市区町村が12年度に財産や給料を差し押さえたのは約24万件、差し押さえ総額は約900億円にのぼる。平均で40万円近く差し押さえられている。
 国保は08年度に保険料の徴収率が9割を割りこみ、厚労省は市区町村に徴収の強化を指示している。市区町村はこれを受け、滞納が長引く人への差し押さえを増やし始めた。  だが、国保加入者は高齢者などの無職と非正規労働者が8割いて、年間所得が100万円未満の世帯が半分を占める。一律に差し押さえをして滞納分を払わされると生活が苦しくなる人もいる。「差し押さえ対象のうち、払えるのに払わない悪質な滞納者は1割に満たない」(中部地方のある市)という自治体もある。
 神奈川県鎌倉市の元保険年金課長で「収納課長奮戦記」の著書がある小金丸良(かたし)さんは「払う金があるかないかを確かめずに差し押さえると、生活基盤を壊す。生活保護を増やすなどの逆効果さえある」と話し、生活状態を考慮した徴収が必要だと指摘する。(鳴沢大、松浦新)