「医療クライシス 医療費が足りない/1 自己負担の重荷」『毎日新聞』2008年4月15日朝刊

私は、この様な視点を持って、患者とその家族に対してきちんと向き合い、かつ社会に対して発信出来ているのだろうか・・・。後期高齢者医療制度において、退院調整加算以外にもMSWが対応しなければいけない大きな問題がそこには確かに存在している。 以下、転載 。
◇払えず死ぬ悲劇  「苦しくなると、病院に電話がかかってきた。でも、『外来に来て』とお願いしても、来なかった。お金がかかるからって……」

 埼玉県南東部の総合病院に勤務する医療ソーシャルワーカーの女性(25)は今でも、今年1月に亡くなった60代の肺がん患者の男性を忘れられない。  男性は、60代の妻と自閉症の20代の長男の3人で暮らしていた。昨年3月、心不全のため救急車でこの病院へ搬送。その後の検査で肺がんが見つかった。  収入は男性のアルバイト代と、妻と長男の年金で月20万円余りあったが、病気で激減。国民健康保険の保険料は払っていたが、自己負担が壁となり、手術や抗がん剤治療を断った。医療費の自己負担が収入の2割近い月3万円以上になる可能性があったためだ。  悪化して呼吸が苦しくなっても、酸素吸引の治療すら月約2万円の自己負担が重荷となり途中でやめた。12月に入院したが、結核性の脊髄(せきずい)炎で死亡した。  医療ソーシャルワーカーは「家族第一の人で、最後まで家族のことを心配していた。治療費の心配がなかったら、治療できたかもしれない」と悔しさをにじませる。 ■  ■  費用を理由に受診を控えたことによる悲劇が各地で起きている。

生活保護を受けることで、ようやく咽頭がんの手術が受けられた弟を見舞う姉=京都市内の病院で3月11日、河内敏康撮影
生活保護を受けることで、ようやく咽頭がんの手術が受けられた弟を見舞う姉=京都市内の病院で3月11日、河内敏康撮影

 京都市の50代男性は昨年11月、物がのどを通りにくくなった。しかし、「金がかかる」とすぐには病院に行かなかった。2年前に糖尿病による網膜症で視力が低下してタクシー運転手をやめており、アルバイトのわずかな収入しかなかった。  症状は悪くなる一方で、お茶漬けを食べるのに1時間もかかるようになり、男性の姉は「このまま死んじゃうのかなあ」と覚悟を決めた。今年1月下旬、生活保護を受け初めて病院に行くと、咽頭(いんとう)がんだった。手術を受けたが、闘病は続く。  東日本の総合病院に糖尿病で通院中の50代男性。昨年11月の離婚後も世話を続ける元妻は「治療費が払えないので、離婚して夫に生活保護を受けさせた」と明かす。  男性は一昨年、糖尿病に加えて脳梗塞(こうそく)も発症した。仕事ができなくなり、収入は元妻のパートなどの月10万円余りに。3割負担は重く、男性は糖尿病の薬や通院を控えるようになり、まともに歩けないほど症状が悪化した。元妻は訴える。  「収入に関係なく、病気を治したい気持ちはみんな同じだ。最低限の医療すら受けられない国に未来はないのではないか」    ■  ■  国保料を払えずに国民健康保険証を取り上げられ、窓口で全額自己負担が必要な「資格証明書」を発行された約34万世帯は、より受診が困難だ。全国保険医団体連合会の推計では、資格証明書を持つ人の医療機関受診率は一般の約50分の1。受診を控えたための死者も報告されている。  後期高齢者医療制度の開始に伴い、75歳以上も資格証明書の交付対象となった。交付が進めば、受診の手控えが広がるのは必至だ。    ×   ×  医師不足の深刻化など「医療クライシス」の背景には、国が続ける低医療費政策がある。医療費が足りない現場で何が起きているのかを追う。=つづく