ソーシャルワークのグローバル定義

国際ソーシャルワーカー連盟と国際ソーシャルワーク学校連盟の総会もしくは合同会議が、2014年7月オーストラリア(メルボルン)にて開催され、ソーシャルワークのグローバル定義が採択された。
http://www.swsd2014.org/ja/

以下、それぞれのサイトにてソーシャルワークのグローバル定義が掲載されている。

国際ソーシャルワーカー連盟
http://ifsw.org/get-involved/global-definition-of-social-work/

“Social work is a practice-based profession and an academic discipline that promotes social change and development, social cohesion, and the empowerment and liberation of people. Principles of social justice, human rights, collective responsibility and respect for diversities are central to social work.  Underpinned by theories of social work, social sciences, humanities and indigenous knowledge, social work engages people and structures to address life challenges and enhance wellbeing.
The above definition may be amplified at national and/or regional levels”

国際ソーシャルワーク学校連盟
http://www.iassw-aiets.org/uploads/file/20140303_IASSW%20Website-SW%20DEFINITION%20approved%20IASSW%20Board%2021%20Jan%202014.pdf

少し戻るが、日本社会福祉士協会ホームページには、この新定義について採択前の第5案をもとに、社会福祉専門職団体協議会(社専協)と日本社会福祉教育学校連盟(学校連盟)が共同で作成した日本語訳と改定の10のポイントを掲載している。

ソーシャルワークのグローバル定義の見直しに係る進捗状況の報告」『日本社会福祉学会ホームページ』2014年3月
http://www.jacsw.or.jp/06_kokusai/IFSW/files/07_sw_teigi.html

第5案は原文のまま採択された様で、現時点では本日本語訳より新しい版はインターネット上で確認できなかった。

ソーシャルワークは、社会変革と社会開発、社会的結束、そして人々のエンパワメントと解放を促進する、実践に基づいた専門職であり学問である。社会正義、人権、集団的責任、多様性尊重の諸原理は、ソーシャルワークの中核をなす。ソーシャルワークの理論、社会科学、人文学および民族固有の知を基盤として、ソーシャルワークは、生活課題に取り組みウェルビーイングを高めるよう、人々やさまざまな構造に働きかける。

この定義は、各国および世界の各地域で展開してもよい」

福山和女「2013年度学会回顧と展望 ソーシャルワーク部門」『社会福祉学』第56巻,第3号,2014,pp.142-156では、新定義について、以下の点が指摘されている。長文だが重要なのでそのまま引用する。

「特に、新定義において視点の大変換がなされたと考える。それは、旧定義で規定されていた人間と行動と社会システムに関する理論を適用して人と環境の接点に介入し、人間関係における『問題解決』を図るという視点が、新定義では問題解決という言葉が姿を消した。ウェルビーイングを高めることを目指し、生活課題に取り組むことを支援し、人々やさまざまな構造に働きかけるという視点が導入されたのである(IFSW:2014.7)。

現在において、この視点の変換はとても重要であると考える。ソーシャルワーカーにとって、これまでの援助や支援の方法は、問題の解決のために問題の原因を追究し、その原因を取り去ることに焦点を当ててきた因果論的直線思考に基づいてきた、いわゆる医学モデル式である。この視点は、生活モデルを導入した後も根強く、現在もなお、人々の問題部分を消し去るという解決方法で、人の存在からその問題を取り除くという引き算的視点が行われているのではないかと考える。もちろん、現場での緊急的対応には悪影響を食い止めるという意味でこの問題解決思考の視点はとても重要であることは自明の理である。

しかし、このたびソーシャルワークの新しい定義で取り上げられた視点は、人々の生活を支援するうえで、生活課題との取り組みを支援することであるとされた。この視点は非常に大切なことであり、システム思考の円環的および足し算的視点へと切り替えられたと考える。これは、人々が問題をもつとするよりも、彼らがそのような状況に遭遇していると捉えるのである。

その困った状況にいることを十分に理解したうえで、彼らがその状況に至る取り組み努力や取り組みパターン、彼らの工夫、生活の術を十分に理解する。彼らがこれまで形成してきたものであり、それを取り去るよりも、積み上げをすることのほうが、されに建設的に、前進できるような支援となるだろう。彼らの困難な状況での取り組みプロセスを初発から各段階をおって十分に精査することにより、問題発生を遅らせ、悪化防止という成果を導き出すためにどこに介入することが的確であるかを把握できる。その意味では、十分にマクロ領域の予防機能を果たすことができ、それがこれからのソーシャルワークの主機能となるのではないかと考える。」(pp.142-143)

この赤線は私が加えたものだが、機会があればこの箇所の意味についてもう少し詳しく福山先生にお伺いしたい。恐らく先日のISTTの研修で言及されていた箇所と思われる。また、生活問題という用語を資本主義社会から派生するそれとして脈々と捉え実践してきた方々からすれば、この新しい定義に対してやや異なった受け止め方をするのではないか。しかし、それも思想の違いとすればお互い違う世界を生きるしかないのかもしれない。