転院問題を考える会議事録(2009年1月27日)

はじめに 関東に『転院問題を考える会』という組織がある。代表は、ひらの亀戸ひまわり診療所のMSW高山俊雄氏。同氏は、元東京都立大塚病院のMSWでもある。メンバーは、近隣MSWで構成されている。 同会の問題意識は、以下の通り。「患者・家族が希望した転院を別にすれば、現在進められる転院は、医療機関主導の転院である。一方、MSWは患者・家族の主訴をもってスタートし、その主訴実現に向け、その主訴に沿って共に歩む、と教科書は教えている。従って、患者・家族の主訴でない転院依頼にMSWはどう対応するのか。このことの検討が会としての第一の課題となっている。第二に、転院していく患者・家族の思いを、どのようにか社会に「声」として発信し、「転院」が社会問題になっていない現状から、社会問題化する方法を探ろうとしている。」 会の社会的活動 この会はこれまでに、以下の社会的活動を行っている。どれも大変意義深い活動である。 1.『第1回転院問題調査報告書』2000.5の作成 2.『第2回転院問題調査報告書』2003.7の作成 3.「『転院問題』から見た医療・介護・地域」『社会保険旬報』2004年8月11日号・21号の取材 4.日本医療社会事業学会自主企画の毎年度開催 特に2.『第2回転院問題調査報告書』は話題を呼び、3.『社会保険旬報』誌において全2回の座談会が特集されるまでに至った。同誌でMSWの座談会が組まれたのは大変珍しいことだと思ったことを良く憶えている。 MSWサマリーについて また、この会の真摯な側面と思うが、議事録を2005年9月21日以降全て公表している。私は、この議事録がUPされるのを毎回とても楽しみにしている。 というのも、普段MSW同士が身内の中だけでしか語られない内容がしっかりと言語化されており、自分の中に無かった問題意識に改めて気付かせてくれるからである。 最近の記事録(2009.1.27)からの注目点は、①転院問題に関する座談会の記事が『社会保険旬報』誌に掲載予定、②MSWサマリーについて本格的に議論が開始されており現時点で考えられる論点が出されていることである(3.転・退院におけるMSWサマリーのルーチン化について)。 ※大学院時代にお世話になった福岡県大牟田市立総合病院MSW北嶋晴彦氏の名前が登場している。 印象に残った文章は、以下2点。 ・「最大の問題は、MSWのサマリーが当然のことになっていないことではないか。つまり、サ マリーを書くという事がルーチンワークになっていないMSW の現状の方が問題だと言うこと。」 ・「サマリーをいろいろ重ねるなかで、書くべきこと、書く必要がないこと、書くべきではないことなどが出てくるのではないか。」 今回の話し合いで出された論点に自分の意見も交えてまとめると、以下6点。 1.何のために書くのか 「より良い療養生活の連続性を求めて」書くということには賛成である。また、連続性に求める基本的視点として、「患者の人権を擁護するというMSW本来の役割を果たそうとするところである。」ということにも賛成である。ポイントは連続性。急性期/亜急性期/回復期ではそれぞれの入院期間の枠で出来ることにはおのずと限界がある。それは避けられようのない事実である。だからこそ、意識的に所属機関で提供できるサービスの限界を意識した上で、次のステージを担当するMSWにソーシャルワークを引き継ぐ必要ある。 自明のことかもしれないが、複数のMSWが集まると意外とブレるのがこの目的の部分である。くどいと思われる位に繰り返し確認することが複数MSWが所属する部門では求められる。 2.誰のものか 他職種と同様に本人・家族に特に了解を得ることなく(入院時、包括同意書にサインをもらうという方法もありうるが)転・退院時に他機関の同職種にサマリーを提供するか。あくまでも本人・家族の同意と文章チェックを踏まえた上で、提供するか。 ※本人・家族による文章チェックを行うと、本人・家族内の意見の不一致や知ったことによる弊害が発生する可能性あり。 3.誰に提供するものか 転・退院時に相手先にMSWに提供することが原則ではあるが、そもそもMSWがいない医療機関もある。また、MSWに提供した後、それがどの様に利用されるかは相手先に委ねられるためMSWだけが見るというコントロールは送り先では出来ない。 4.どういう時に作成するのか 自分が関わったクライアントの内、転院する場合は全てに作成するのか。作成するしないの基準は何か。また、転院が決まる前と後どのタイミングで相手先に提供するか。 5.提供方法 郵送/FAX/E-mailどれを用いるか。 ただし、所属する組織によって統一したルールがあることが予想されるため、その場合はそちらを優先する方が良いと思われる。 6.何を書くのか MSWとして何をサマリーの中に書くのか。原則的には、担当MSWとして次に担当するMSWへソーシャルワークの引き継ぎを行うため、その援助経過と援助課題と援助計画を書くことが中心となる。あとはその援助に関連する情報をプラスしていく。病名は必須だが、本人・家族が事前チェックをするとなると医師からも知らされていなかった病名を知ることもありうる。 なお、同会がMSWサマリーについて言及したのは、あくまでも議事録上の話ではあるが、2007年4月10日の例会においてである。 次回は、2月24日(火)。議事録が楽しみである。 【関連】 ・「MSWサマリーについて」(2007.9.26) ・二木立「首都圏の長期入院患者の平均保険外負担は1月当たり10万円前後」『文化連情報』No.321,2004年12月号