東京都の転院支援情報システム

東京都は、2014年7月より「転院支援情報システム」の運用を開始している。
http://www.himawari.metro.tokyo.jp/qq/qq13tomnlt.asp

具体的には以下の通り。

「都医療機関案内サービス『ひまわり』からログインし、『転院支援用病院情報検索』を選択。患者が希望する地域や入院病床の種別、入院費用、入院可能期間などの条件を入力して検索すると、登録された施設の中から条件を満たす病院が選ばれ、名称が地図上に表示される。その病院名をクリックすると、転院支援に関する詳細な情報が表示される仕組みだ。」出典:「家族らの負担を軽く 地域、入院の費用、期間などで検索 7月から『転院支援情報システム』稼働」『公明新聞』2014年6月28日
https://www.komei.or.jp/news/detail/20140628_14338

同システムはあくまで都内約650ある医療機関の職員のみが利用できるシステムであり、都民やそれ都外の医療機関職員は利用できないとのこと。

検索可能な項目のうち、興味深いのは以下の項目である。

認知症関連の受入れ、対応可能な医療処置、おおよその入院可能期間、おおよその入院待機期間」出典:『MSWkingyoのブログ』2014年6月23日
http://mswkingyo.cocolog-nifty.com/blog/2014/06/623.html

既に企業においていくつかのシステム構築はなされているが、情報が限定的にならざるをえなかったり、利用料が発生するなど課題もみられた。今回のシステム運用をきっかけに、転院支援の情報精度の向上が期待される。但し、言語化される情報以外に暗黙知となっている部分も多く(例:○○の病気は得意、△△の病気は苦手。○○の患者が多くて今は担当医が手一杯のため○○の患者は受入ストップ、抹消補液の看取りは受入不可など)、形式知暗黙知両方をバランスよく活用するのが妥当であろう。

話は少しそれるが、2014年3月18日に開催されて東京都厚生委員会において、笹井医療改革推進担当部長は以下の様に述べている。

「転院支援情報システムにつきましてでございますが、学識経験者や、病院で実際に転院支援に当たっていらっしゃる医療従事者から成る検討会を設置いたしまして、具体的な内容について検討を行いました。システムは医療機関の所在地や提供しているリハビリテーションの内容、おおよその月額入院費用など、転院先選定に必要な条件を選択すると、該当の病院が地図や一覧表で表示され、そこから病院の詳細情報を検索できるものとしております。」
http://www.gikai.metro.tokyo.jp/record/kousei/d3050270.html

残念ながら、この検討会の情報を見つけることはできなかった。どういう背景でどういうメンバーが選定されどの様に議論されて本システムが構築されたのかその過程が知りたい。そして、実際にシステムを利用している方の感想も知りたい。

なお、同システムについては、2003年7月の段階で既に高山俊雄氏が「システムの管理、あるいは内容変更について等、長期的にフォローする必要性からも、行政の積極的関与が必須の条件といえる。(中略)都道府県単位で、行政と医師会との共同作業で進めることが、一番確実な方法といえよう。」(p171)と指摘していたのを思い出した。
出典:転院問題を考える会『第2回 転院調査報告書』2003年
file:///C:/Users/tahi-ti/Downloads/houkoku_2.pdf

高山氏は、システム運用が開始されたのを見て今何を思うであろうか。

「MSW 業務が、経済的困難な患者さんへの諸制度利用によるアドバイスや共に諸制度の矛盾を社会問題化して解決を図ろう、といった従来型の動きが少なくなったことを意味している。その結果、どのような状態の患者さんは、どのような病院なら受け入れ可能か、といった医療機関に対する多くの情報を持つことが MSW の重要な業務的位置を占めるようになってきた」(同p168)というMSW業務の変化への高山氏の指摘は、10年以上経った今、ますますその傾向を強めている。

都道府県のMSWの職能団体も医師会や看護協会と協力して行政に働きかけ、既存の医療機能情報提供制度のインフラをベースに東京都と同様のシステム構築を図って頂きたい。