「都市部と地方の連携〉 (下)生活につなぐ」『中日新聞』2013年9月17日

「都市部と地方の連携〉 (下)生活につなぐ」『中日新聞』2013年9月17日 http://iryou.chunichi.co.jp/article/detail/20130918135359133 患者の「背景」を診る 高齢社会のヒントに  患者を集中的に治療し、入院期間をできるだけ短縮させて、次の患者を受け入れなければならない都市部の高機能病院。その最前線の医師らが、派遣先の三重県立志摩病院(三重県志摩市)で、医療のあり方を問い直している。病気だけ診ていては気付かない、患者一人一人の暮らしにつなげる医療を真剣に学ぶ姿があった。 (林勝)  東京ベイ・浦安市川医療センター(千葉県浦安市)から、志摩病院に派遣され、専門分野を学ぶ後期臨床研修医の津久田純平さん(32)。末期がんで入院中の高齢女性のベッドサイドで、家族の話に耳を傾けた。「手作りのジャガイモの汁を喜んで飲んでくれました」という娘の報告に、津久田さんは「病院食にこだわらず、好きなものを。本人にとって、とても大事です」と励ました。  別の部屋では、認知症の高齢女性患者の退院時期について、社会福祉士やケアマネジャーと患者を囲んで意見を交わす。家族の支えや福祉サービスの状況、本人の希望を踏まえ、一緒に考えた。  「ここでは福祉を担う人との顔の見える関係があり、患者さんの生活で本当に多くのことを教えられます」。食事の管理や介護は誰が担うのか、起床中はどう過ごすか、トイレの介助は−。回復させても退院後の生活に問題があれば、また体を悪くしてしまう。病院から地域の生活につなぐ大切さを学んでいる。  東京ベイでは救急現場で連日、重症患者を治療した。専門性の高い医療は提供できるが、患者の退院後の生活まで考える余裕は少ない。治療が終われば「患者は何とか生活に戻るだろう」と、漠然ととらえていた。  ある高齢患者を担当した際、退院後のケアを家族に説明した。だが、患者は家庭でたんの除去がうまくいかず、まもなく肺炎を起こして再入院してしまった。その時は仕方がなかったと済ましていたが、今は違う。「報告、連絡、相談の『ほうれんそう』を心がけ、患者さんの暮らしまで考える医療をしなければ」  指定管理者制度で、地域医療振興協会が運営する志摩病院。管理者で指導医の片山繁さん(47)は「東京ベイから派遣された医師が志摩で地域医療を学び、将来は都市部で生かしてほしい」と期待する。片山さんも以前、首都圏で救急医療に従事。多くの大規模な医療機関があるのに、救急患者の「たらい回し」が起きるのを憂慮していた。  背景に救急現場の忙しさもあるが、「(生活環境の問題など)退院後の生活の見通しが立ちにくい患者は、できるだけ受け入れたくないとの病院側の考えがある」と指摘する。たとえ受け入れても、退院後の生活を適切にケアできず、入退院を繰り返す患者もいる。独り暮らしの高齢者が急速に増える都市部において、高度医療だけでは解決できない重い課題だ。  「人のつながりが根強く残る地方にこそ、超高齢社会の医療をつくるヒントがあるはず」。片山さんは福祉と密に連携し、患者の暮らしを支える医療者を、1人でも多く育てたいと意気込む。  志摩病院社会福祉士 前田小百合さん  退院後の暮らしも考えて  患者の生活のため、地域連携の要として、志摩病院で活躍する社会福祉士の前田小百合さん(47)に、都市部の医師らが地方医療で学んでほしいことを聞いた。  別の病院で、ある研修医が言っていました。「地方研修は時間の無駄と思って来たが、考えが変わった。病気ではなく、患者さん自身を診ることが必要と分かった」  私がその研修医に話したのは、医療と福祉は切り離せないということでした。高齢社会では治療が完璧でも、多くの患者さんは慢性疾患を抱えながら暮らします。退院後の生活も考えた医療でないと、また重症化して再入院してしまいます。  そうならないよう、ケアマネジャーや福祉施設職員、民生委員ら、退院後の患者さんの生活に関わってくれる人たちの情報を大切にし、連携を深めてほしい。  医療の後に暮らしがあるのではなく、暮らしの中に医療や福祉、介護が含まれているのです。そう考えると、暮らしと関係なく延命をするより、自然なみとりを支える医療や、福祉の大切さも分かってもらえると思います。