第62回 公益社団法人日本医療社会福祉協会全国大会 参加記録

○印象に残ったこと
【5月22日】
日本医療社会福祉協会社員総会。これまで事業計画と予算を総会で議決していたが、理事会で承認する形に変更する案が提出され、定数を超える賛成により成立した。これにより、年度末の臨時総会は今後開催されないことに(通常の社員総会は今後も開催)。予算規模の維持・拡大。常勤職員の待遇改善や業務拡大。常務理事の配置。本部・支部関係の整理。ロードマップ上の取り組むべき課題を1つ1つ解決していって頂きたい。

【参考】職能団体別 会員数及び予算規模
■福祉領域
日本社会福祉士会    会員数約35,000人 予算規模 約3億4千万円(2013年度
・日本精神保健福祉士協会 会員数約10,000人 予算規模 約2億(2012年度
・日本医療社会福祉協会 会員数約5,000人 予算規模 約1億円(2010年度

■医療領域
日本医師会 会員数約166,000人 予算規模 約130億円(2013年度
日本看護協会 会員数約670,000人 予算規模 約51億円(2013年度
日本理学療法士協会 会員数約85,000人 予算規模 約13億円(2014年度)

【5月23日】
○基調講演 テーマ:命とあたたかい触れ合い方から 東日本大震災の遺体安置所から考える
ノンフィクション作家の石井光太氏の講演。東日本大震災直後から3ヶ月間の遺体安置所での取材をまとめた『遺体: 震災、津波の果てに (新潮文庫)』2011をベースにお話し頂いた。震災当時の凄惨な状況をあえて淡々と話す姿が印象的だった。「人間の言葉の温かさが生きることにつながる。つらいときにそばにいてくれる人に助けられる。人と人とのつながりを大切にしてほしい」という言葉に自分の仕事がそうできているかと考えさせられた。ただそばにいるだけではない。相手がこれからもその町で生きていけるように適切な声かけや関わりが重要と再認識した。石井氏が年齢が2才しか変わらないことに驚き。

石井光太氏のHP
http://www.kotaism.com/

茨城県協会シンポジウム テーマ:生命・生活・人生の視点から
松隈愛子氏(聖マリアンナ医科大学病院腫瘍センターがん相談支援センター)の報告では、がんサロンをサポートグループ、サポートプログラム、情報提供の3つに分類。さらに情報提供は下位項目として、場所提供型/イベント型/グループワーク型に分類。さらに、グループワーク型には、下位項目として、クローズグループワークとプログラム化したグループワークがあると指摘。サポートグループ(プラタナス)を週1回、エクササイズプログラムとしてヨガ(インストラクター付き)を月2回、多職種が担当するミニレクチャーを月1回実施しており、かなり充実した体制に思えた。また、印象的だったのは、患者・院内スタっフ合同でがんにまつわるブックレットを作成していたり、患者団体Japan for Live STRONGが主催するアート展を院内で実施していたりと、自院の活動を考える際のとてもよい参考なった。

なお、サポートプログラムのタイプとしては、デイヴィッド・スピーゲル氏の支持・感情表出型を採用しているとのこと。(参考:週刊医学界新聞記事2003.12.15)

続いて、植竹日奈氏(まつもと医療センター中信松本病院)は、ALSの告知や人工呼吸器装着の意思決定にMSWがどの様に関わっているかについて報告。かなりICに近い内容にまで踏み込んで説明をしているが、「医師とMSWの意思疎通が図れていること、医師とMSWが双方に患者に対して何をしているか分かっていないとできない」という前提がある。抄録にも掲載されているが、自らの命の限りを自分で決める、ALSの人工呼吸器選択は非常にわかりやすい形でそれが顕れるだけで、胃ろうなどの経管栄養選択、がん末期での抗がん剤継続の選択も同じ。この指摘は本当にその通りだと思う。

生きるか死ぬかを決めるのに必要な情報は、ALSに関する医学的な知識やケアについてだけでない。仕事のこと、家族のこと、お金のこと、楽しんできた趣味のこと、『命』について考えることはすなわち生活や人生について考えること。医師だけでなく、私たちソーシャルワーカ―に提供できる情報、共有できるプロセスはたくさんあるのです

植竹ほか『人工呼吸器をつけますか?―ALS・告知・選択メディカ出版2004を読んで以来、より正確に言えば2007年の日本医療社会福祉学会第17回大会で事例報告をされていた時の事例に臨む姿勢を拝見して以来、患者・家族の意思決定を支援をする際、MSWとしてのロールモデルはずっと植竹氏である。なお、本文献が東京大学清水哲郎先生と植竹氏が繋がり、社会学者とともにALS患者にインタビューをしまとめたものと知った。

○記念講演 猪飼周平先生(一橋大学大学院社会学研究科教授)より地域包括ケア時代におけるMSWへの期待という趣旨の報告。事前に猪飼「生活モデルに基づくヘルスケア再編の射程」『病院』73巻1号,2014,pp.18-23を読んで、結論が「ソーシャルワークの重要性の増大」であったことに驚きつつも嬉しかったので、思わず職場のMSWに論文を回覧した経緯がある。その時、何故社会学者がこれ程までにソーシャルワークについて言及するのか疑問に思っていた。

講演では窪田暁子先生(中部学院大学名誉教授)と親交があられた様子。調べると、この1年間で、猪飼先生が窪田先生の本『福祉援助の臨床: 共感する他者として』などを読み、窪田先生の講演を聞き、直接会い、猪飼先生の研究会で窪田先生に報告してもらう、という経過を辿られていたご様子。また、大変遅まきながら2014年4月24日に窪田先生がご逝去されていることを知った。

ソーシャルワーカーとは何なのか。1)制度が利用できるようにする職業、2)生活困難に存在する本来的な複雑性に対抗する職業。本来は2)の専門家なのではないか。」

窪田暁子「問題解決を目標としてはならない。あらかじめ目標を決めて支援に入ってはならない。」
QOLの評価を3層構造で分類する。最下層が生活最低限の層。その上は日常的評価の層。一番上は、不可知の層」
QOLの特徴。Optimumに近づけるほど、測定可能性が下がる。従来のHRQOLは生活の質自体を測定していない。QOLそのものを測定しているのではなく、その周辺を測定して類推するという方法にしか過ぎない。血圧を測るのと同じ。主観的にもよく分わからない(本人も良くわからない)。このことを前提とすると、QOLが何かについてはブラックボックスにいれたままで、取り扱わなければならない。このような条件に適した支援方法がソーシャルワーク的支援」

「『決めてあげる』と『自分で決めさせる』の間を行ったり来たり。この過程がQOLを支えるということ」

○交流会
今回の大会参加は、学会発表以外にこの交流会でどうしても直接お話を伺いたい方がいた。貴重なお時間を割いて相談の乗って頂き、感謝。これからも学ばせて頂きます。

・各職種との橋をきちんと築いておく
ソーシャルワーカーは無。何をしたいか、それはクライエントにある。やりとりをしながらみつけていく。しかし、聞くだけではなくこちらからリスクアセスメントをしつつ提案もする。
・心理/社会的な痛みをアセスメントし、他職種に切れ味よくどうプレゼンするか。

○二次会
会場を移して、他県協会メンバーの飲み会会場に合流。全国医療ソーシャルワーカー協会会長会への愛知県加入に向けて様々な協会の方々が後押しして下さっていることを知りました。
また、転院問題を考える会が発展的解散をしたと知り残念に思う。

【5月24日】
○データシステムの今後の展望~エビデンスデータの作成を目指して~
日本協会が提供している業務統計ソフト『ソーシャルワークデータシステム』の2014版が完成し、報告・実演がなされた。変更点は、笹岡眞弓氏が研究代表を務めた『急性期病院におけるソーシャルワーカーの実務基準と質指標(クオリティーインジケーター、QI)の開発に関する実践研究』(平成23-25年度)の研究成果を踏まえて、サマリ部分に介入必要度とクオリティーインジケーターを追加したこと。今年5月末には日本協会HPから無料でダウンロード可能とのこと。併せて、亀田総合病院より北里大学病院へ移られた小野沢滋氏が同病院で開発中の業務支援ソフト(データ集計と記録)も晩夏に無料配布予定とのこと。ちなみにこちらはFileMakerPro製となる。特徴は、内容の修正可、業者との契約で電子カルテから自動でデータ取得が可能(有償サービス:30万円程度)といったところ。

当方からは、当データシステムが国内の主に急性期病院のMSW業務統計に大きなインパクトを与えたことに敬意を表しつつ、がん相談支援センター業務の再集計機能の追加をお願いしました。限られた予算のなかでシステムを変更することは極めて困難かと思いますが、本ソフトのインパクトを考えると是非追加してもらいたいと切に願う次第です。

追伸:『急性期病院におけるソーシャルワーカーの実務基準と質指標(クオリティーインジケーター、QI)の開発に関する実践研究』(平成23-25年度)の報告書、楽しみにしております。

○分科会発表
当方は、「代替栄養法を選択する過程における医療ソーシャルワーカーによる家族支援」というテーマで発表しました。頂いた質問と当方の返答は、以下の通り。

Q1 代替栄養法を選択する過程の面接で気をつけていることは何か?
A1 インテーク面接において、冒頭で「今日は何かを決定するための場ではありません。代替栄養法について、ご本人やご家族のお考えを教えて頂く場であり、またそれに関する情報を当方から提供する場でもあります。」とお伝えし、緊張を和らげるようにしています。また、これから代替栄養法を選択するに当たり、継続して支援していく担当者であることを知って頂く自己紹介の場でもあります。ですから、あまりこちらから一方的に「この栄養法だとこういう行き先になります」といった説明をするのではなく、あくまでお話を伺うことを基本としています。但し、患者・家族も様々ですからそこは必要に応じて面接の組み立て方を変える必要があります。

Q2 入院もとの施設から、経口摂取できなくなった患者の受入れ条件として胃ろう増設を求められた時、葛藤を生じる。その場合はどう対応しているのか?
A2 基本的に行き先に合わせて代替栄養法を決めるということは避けたい。ともすれば、退院先に合わせて患者を加工することは非倫理的と考えるからです。その場合は、療養病床への転院を勧めています。但し、MSW一人の判断では決められない。日頃から医師や看護師と「行き先によって代替栄養法を決めるのはおかしい」という考えを共有できる様にコミュニケーションを密に取ることを意識している。

Q3 発表スライドで経鼻栄養よりも胃ろうの方が在院日数が長かったのはなぜか?
A3 急性期病院でお勤めの方はイメージが出来ると思うが、通常は胃瘻造設の諸検査から実施、その後使用できるまでの日数分が胃ろうの患者の在院日数を延長させていると考えます。

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分科会報告の様子。東京の知人が撮影してくれました

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日立駅。とても綺麗。2011年に完成したとか

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大会会場の日立シビックセンター。大きい
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あづま屋の家系ラーメン。茨城県に来てまで食べてしまった…
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イトーヨーカドーに売っていた、地元の納豆パック
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ホテルの朝食。ベーコンが美味しかった
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初日の開会式。厚生労働省茨城県知事、水戸市長、日本医師会常任理事、茨城県難病団体連絡協議会会長が来賓
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昼食
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記念講演。猪飼周平氏一橋大学大学院教授)
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交流会の模様
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震災復興のキャンドル
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帰路の新幹線にて崎陽軒チャーハン弁当
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お土産に納豆をたくさん買いました。特に藁の納豆はイトーヨーカドーにも無かったのですが、日立駅のコンビニに売っていました。ちなみにイトーヨーカドーの食品売り場納豆コーナーの商品の大半はミツカン製(愛知県半田市)…。
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茨城県協会作成のMSWTシャツ。2000円也。さあ、どこで着るか(笑)。出来れば運営スタッフが着ていた紺色のポロが欲しかった。