堀越由紀子「意思決定における価値-医療ソーシャルワークの立場」『Modern Physician』vol.36,№5,2016,pp437-440

堀越由紀子「意思決定における価値-医療ソーシャルワークの立場」『Modern Physician』vol.36,№5,2016,pp437-440

■感想
たった4ページの中に、重要な要素がバランスよく配置されている。また、引用文献のchoiceも魅力的。変わらずの文章力に脱帽。意思決定が話題だが、治療的選択以外の心理・社会的な選択をも含むとの指摘はもっとも。題名の通り、医療ソーシャルワークの立場からみた意思決定に関する論文。ソーシャルワークのルーツをCOSではなくドイツのディアニコッセにおいているところが新しい。

■印象に残った文章
・医療における意思決定は、医学的見地からの治療法選択だけが主題ではない。(中略)患者は、自分の生活や人生の文脈に沿って病気を考え、治療法を考える。(p437)

ソーシャルワークのルーツは、ナイチンゲール(Nightingale F)と同じ時代、ドイツを中心に貧困者を訪問支援する活動として展開されたディアコニッセ(Diakonisse)に遡る。それがイギリスに移入されて慈善組織協会(Charity Organisation Society)と称されるに至り、やがてアメリカで盛んになった。(p437)
※Organizationではなく原文ではOrganisationであったと。

・ブトゥリムは「人間は個々が独自性をもった生きものであるが、その独自性を貫徹するために他者に依存する存在(筆者訳)」であると述べている。つまり、人間は自身をとりまく環境の中にあって、他者や諸物とかかわりあいながらしか存在し得ない。人間と環境とは分かち難いのであって、それこそが生活であり、人生である。(p438)

・患者本人のことは本人から教わるのがもっともよい。しかも、繰り返し教わるのが良い。(p440)

・現在の医療政策は医療の集約化と合理化を強化する方向に進んでいる。ソーシャルワークにおいても、患者のニーズと既存の資源をつなげるケースマネジメント手法が浸透した結果、その本来目的と離れる方向に実践が変容している。その実情についてダスティン(Dustin D)は、マクドナルド化というインデックスを用いて分析し、行き過ぎた合理化がソーシャルワークの脱人間化を促していると述べている。患者一人ひとりの生活や人生の個別性・独自性を捨象して、あたかもファストフード・レストランのセットメニューのように簡便にサービスが用意される傾向は、介護保険制度下のケアマネジメント、病院からの転退院支援等に散見される。(p440)

・ドミネリ(Dominelli L)は「社会資源に導かれる価値が、ニーズや人間そのものに導かれる価値と対立するとき、バイスティックの原則に表されるようなシャルワークの価値を実行するのは困難になる」と述べている。(p440)

・意思決定の内容と要素を心理社会的な範囲まで広く捉えること、日常的なごく些細な選択のためのかかわりが患者の意思決定をよりよいものにするということ、そして、人間が切望する「選択」とは意を異にするおさまりの選択肢の提示はよりよい意思決定の助けにならないと、この三点がソーシャルワークからの提言である。(p440)

■紹介された文献の一部