第2回医療社会福祉計画論演習(08.4.17)

本日は、二木先生の『医療経済・政策学の視点と研究方法』勁草書房,2006の「第1章 医療経済・政策学の特徴と学習方法」pp.3-26を題材に演習。 【重要と思った用語】 医師誘発需要理論 →柿原浩明『入門 医療経済学』日本評論社,2004,pp.60-62における定義 ※著者は、「需要誘発理論(physician induced demad)」と表記。 「医療に関する情報に非対称性が存在すれば、医師が医療に関する需要を誘発できる可能性があるという仮説である。」(p60) ・医師誘発需要理論の3類型(pp.61-62) (1)潜在需要の顕在化(過小需要から適正需要への変化) ①がん検診の必要性を啓発する場合 ②高血圧、高脂血症、糖尿病などで未治療の患者に治療を勧める場合 (2)過大需要への誘発(本来の医師需要誘発理論) ①治療の必要性がない疾患の治療を勧める場合 ②治療の必要性を過大に認識させる場合 (3)両方の要素が混合 ①頭痛患者にCTスキャン、MRIなどの画像診断を勧める場合 ②命にかかわらない疾患の治療 →漆博雄『医療経済学』東京大学出版会,1998,p.39における定義 ※著者は、「医師誘発需要仮説」と表記。 「情報の非対称性が医療サービスの取引に与える影響に関する仮説である。」(p39) 「『一般的な医師誘発需要仮説』によれば、人口当たりの医師数が増加すると、医師は所得の減少を防ぐために情報の非対称性を利用して医療サービスの需要を誘発するという。医師誘発需要仮設には、競争的な市場における需要曲線のシフトによって説明するアプローチと、情報の非対称性や医師の裁量を明示的に使って説明するアプローチがある。」(p39) 同署では、pp.39-59を「第3章 医師誘発需要」として1章分を費やして論述している。 【印象に残った先生の言葉】(覚書なので正確ではないです。) ・変なアンケート調査をやるくらいなら、質的調査をやった方がよっぽど意味がある。但し、単に質的調査だけでは政策提言には無力。量と質両方やるのが大切です。グラウンディット・セオリーは、まだ確定したものではないから、独学ではなく先生について指導を受けながらやったほうが良い。 ・あなたにとってスマートに学ぶことは、論文を書くこと。論文を書くために必要な資料を集めていれば、スマートになるよ。 ・学術用語とは、価値中立的に表現するもの。 ・価格競争と擬似価格競争では全く意味がことなる。診療報酬という公定価格である以上、需給曲線を前提とした価格競争は日本において大枠ではありえない。 ・"Large If"という言葉は、「~さえ可能となれば、○○になる。」といった、実現可能性がないことを言っている場合に使う。学部生でよくある青年の主張です。別にそれがダメだと言っているわけではない。How具体的にどうやってその条件をクリアするのかということを書かなければダメ。 ・(回復期リハビリテーション病棟入院料の2段階性について)アウトカム評価と言っているけれど、本気で厚労省がやろうとしている訳ではない。老人病院に毛の生えた程度の様な、全国の回復期病棟の中でも下位10%の病棟を切るためにやった。実際、8割以上の病院が「1」を算定できたはず。 【感想】 ・大学院でハードに学ぶことや多読することは一応身に付いた。けれども、フュックス教授の助言(注)にある「ハードに学べ、しかしもっと重要なのはスマートに学ぶこと。」の後半が出来ていないことに反省させられた。それを受けて、先述の二木先生の言葉がずっしり重たかった・・・。そう、レフェリー付きの学術雑誌に論文を投稿・掲載されることが、今の私にとって短期目標であることを突きつけられた感じがした。 なお、これと関連して、先生の同著第5章で記憶力強化の3つの方法において「第3は、その資料・情報をすぐに論文で引用することです。これは、研究者として一番効率的な方法です。これにより記憶の強化と文献・資料整理の両方が一度にできます。重要な文献・資料をきちんと引用している論文は、著者自身にとっての最良のデータベースにもなるからです。」(p131)という指摘も重要だと思う。 注:V.R.フュックス(二木立訳)「医療経済学の将来」『医療経済学研究』vol.8,2000,pp.91-105 ※権丈善一先生(慶應義塾大学)HPよりリンク。 ①2008.4.18 加筆・修正 ②2008.4.28 加筆