西田和弘「論壇 社会福祉法人のガバナンスと地域貢献」『週刊社会保障』№2996,2018年11月5日,pp.48-53

西田和弘「論壇 社会福祉法人のガバナンスと地域貢献」『週刊社会保障』№2996,2018年11月5日,pp.48-53

筆者は、岡山大学大学院法務研究科(法科大学院)教授平成28年社会福祉法等の一部改正法が成・立公布され平成29年に全面施行されたことを踏まえ、28年改正法の概要、ガバナンスの強化、地域貢献のあり方について論じている。

■印象に残ったこと
・現在、会計監査人制度の対象となるのは、30億円以上の収益のある法人で社会福祉法上、「特定」社会福祉法人と位置付けられている。これは社協を含め2万あまりあるほうじんの1.62%に過ぎない。平成31年度以降の対象となる20億円以上の規模の法人を含めても、全体の3%程度である。90%近くは、10億円以下の規模であり、実はこうした小規模法人ほどガバナンスの問題が多い。(今後10億円以上まで引き上げられる)(p49)

・28年改正法24条2項は、「社会福祉法人は、社会福祉事業及び第26条第1項に規定する公益福祉事業を行うに当たっては、日常生活又は社会生活上の支援を必要とする者に対して、無料又は低額な料金で、福祉サービスを積極的に提供するよう努めなければならない」とする経営の原則に関する努力義務規定を定める。(p50)
・シンプルに言えば、「公益的な取組」が広い概念で、そのうち、充実財産に基づく充実計画を作成し、継続的に実施していく事業が「地域公益事業」という関係になる。(p51)
・しかし、平成29年度において、充実財産ありと回答した法人は12%で、それも多くは、社会福祉事業(既存施設の建替・施設整備、新規事業の実施、職員待遇の向上など)に充てられ、地域公益事業に関する計画が策定されたのは3%に過ぎない。これは、充実財産の使用優先順位が、社会福祉事業、地域公益事業、公益事業の順とされているため、第二順位の地域公益事業に充てうる余裕がない法人が多いことを示している。(p51)
・一法人での取り組みが困難な場合は、同一地域内の複数法人で取り組む手法もある。すでに生活困窮者支援など、各法人の拠出金をもとに、公益的な取組あるいは地域公益事業を行うフレームワークが各地でできている。(p51)
・地域貢献としては、社会福祉法人成年後見制度の担い手になるか、つまり積極的に法人後見事業をするか否かという論点もある。(p51)
障害特性を理解した支援においては、社会福祉士に期待されるところだが、独立型社会福祉士は極めて少なく、大半は社会福祉法人など組織に雇用される立場である。よって、福祉専門職の多くは、後見人等としての活動を期待されても自由に受任できる立場にはない。(p52)
法人のサービス利用者にとどまることなく、地域の高齢者なども広く対象として後見事業を行うことは、社会福祉法人の地域貢献の象徴的取り組みとなる可能性がある。(p53)

■思ったこと・考えたこと
単身世帯や高齢夫婦世帯が増加し血縁が弱まる中で、外来・入院の中に身寄りがない患者に出会うことが稀ではなくなった。医療機関では、本人がやがて自分のことを判断できなくなることを想定して、キーパーソンを求める。医療機関の都合もあるが、一方で弱っていく本人が適切に治療を受けられるようサポートする人がいた方が良いという至極当然の提案でもある。

医療機関においてキーパーソンに求められる役割は、本人に判断能力が無くなってしまった場合の医療同意代行、金銭管理と支払い、転院・転所・在宅サービス利用手続きの支援、日常的な世話、死亡時のご遺体引き取りの5点である。キーパーソン=身元保証人でもある。

地域(伊賀市半田市)によって、身元保証人を不要とする地域づくりが展開されており素晴らしい活動と思うが、残念ながらなかなか広がりをみせない。一方、足立区社会福祉協議会のように、行政からの資金援助を受けて後見人+身元保証にも取り組む活動も注目されている。しかし、予算制約もある。私としては、社協にある後見センターや行政共同出資のNPOによる法人後見団体が+αとして身元保証事業を展開してもらえると安心して紹介できると考える。判断能力はあるが、身寄りがなく上記キーパーソンが不在の人も対象に広げるという訳だ。民間の身元保証団体は、初めからそこにターゲットを設定して急速に事業拡大をしている。

社協に加えて、本論文で紹介された通り地域公益事業の取り組みとして、社会福祉法人がこの後見+身元保証を展開頂けると、地域住民が安心して医療・介護サービスを受けられるのではないだろうか。但し、医療同意権は一身専属のものであるため請け負う対象からは外した方が良い。その上で、受任者は継続的な関係性から、本人の推定意思を把握し、本人が判断能力を失った場合は、関係者で協議する仕組みが妥当ではないだろうか。医療機関側も、キーパーソン=医療同意代行者ではないことを理解しておく必要がある。

他にも、死後事務や遺産相続、家財処分といった論点もありこのテーマは非常に奥が深い。