浅野正嗣「ソーシャルワークと家族療法」『家族療法研究』第29巻3号,pp.248-253

浅野正嗣「ソーシャルワークと家族療法」『家族療法研究』第29巻3号,pp.248-253

「1980年代後半、当時話題であった構造派の家族療法を学びたいと、Minuchin,S.のもとで構造的家族療法を学ばれた中堀仁四郎先生(元・南山短期大学教授)にお願いして医療ソーシャルワーカーの仲間数名と定期的な事例検討会を行った。また、長谷川啓三先生(現・東北大学大学院教授)が名古屋で大学教育とともに医療機関(現・名古屋医療センター)でMRIによる家族療法を実践・指導されていることを知り、学びの仲間に加えていただいた。その後、長谷川先生主催のワークショップ(Berg,I.K.,Shazer,Sなどのマスターセラピストを招請)でミラクル・クエスチョンやスケーリングなどMRIの技法を学習する機会を得た。本学会の創設にかかわられた一人でもある鈴木浩二先生(元・国立精神・神経センター)の主催される家族療法の研修会やワークショップにも積極的に参加した。なかでも1990年・1991年のDuul,B.、1992年のPapp,Pのワークショップで学んだ家族造形法は私の援助実践に大きく影響している。当時は家族療法ブームとでもいうような熱い雰囲気が漂っていた。」(pp.248-249)

ここで印象的なのは、浅野氏がただ家族療法にカルチャーショックを受けて、本を読んだり研修に通うだけでなく、具体的な行動を起こしていることである。それも当時の第一人者の門戸を叩いている。忙しい日々を言い訳にしていると、月日は瞬く間に過ぎてしまう。自分自身に置き換えて考えるといったい何をしているのか。偶然か必然か浅野氏は当時、私と同じ30代中ばから後半である。

ソーシャルワーク領域で家族療法を援用した実効は3点に要約することができる。

・援助関係が硬直化しがちな場面において柔軟な事例理解ができる
・事例全体を俯瞰するなどアセスメントツールとして活用できる
・多様な介入技法により援助の引き出しが増える」(p.251-252)

実際に、今の私が実感していることである。但し、実践においては課題があり家族のコミュニケーションパターンや境界(バウンダリー)・パワーを仮説として持った時に、つい家族原因思考となる傾向があり、実行レベルで正確に理解できていない。「分かる」と「できる」は違うのだとつくづく思う。結果的に、「そのコミュニケーションパターンが問題なんです」とフィードバックしてしまいそうになる。家族療法やブリーフセラピーを学びその知識・技術をソーシャルワークに「安全」に活かすためには、やはりスーパービジョンを受ける必要があることを今ようやく心に据えることができた。

ソーシャルワークの視点から家族療法の活用をみてみると次のような立場がある。

ソーシャルワークを背景にした家族療法家として家族療法を積極的に行う立場
ソーシャルワーカーは家族ソーシャルワークを行い、家族療法家は家族療法を行うとしてソーシャルワークと家族療法を区別する立場
・社会的問題解決志向のなかで社会資源の活用、システム理論の導入、家族療法の技法の援用と言ったソーシャルワークと家族療法を折衷する立場

このようにみると日常的に行われているソーシャルワーク実践は、クライエントの生活問題に焦点を当てた社会資源の活用などの直接的な援助を行いつつ、家族システムの理解および家族支援の方法論など家族療法を援用した折衷的な援助を行っているといえるかもしれない。」(p.44)

ソーシャルワーカーが家族療法を学ぶ上でどのようなスタンスで取り組むのか。私は、ソーシャルワーカーとして、「ソーシャルワークと家族療法を折衷する立場」で実践できる様になりたいと思う。この論文は、私にとってこれから取り組むことがらの出発点だと思う。